19 / 113
3-1
人生最大のピンチだ。
あれから、ゲーセンに行く約束の詫びをきちんとした後、放課後になると、カバンを引っつかみ、友人らの別れの挨拶をそこそこに、一足お先に屋上へと訪れていた。
朱音はSHRが終わったのと同時に教室から出ていくというのに、紫音はもうすでにヴァイオリンを弾いているのだ。
一年の朱音がいる階の方が屋上に行くのが早いのに、三年の紫音の方が早いだなんて。
いや。もしかするとうちの担任のせいかもしれない。うちの担任はやたら話が長く、そして、ゆったりとした口調だもんだから、一年の中でも一番遅くに終わる。
それにイラッとしているクラスの人達は、何かと野次を飛ばしたりするから、なおさらだ。
紫音より早く行って、来るのを待ってみたい、ということが出来ない悔しさを胸に秘め、素っ気ない返事をする紫音に、大野の時としているように、一人語りをし始めた矢先──。
高校に入って初めてのテストが来てしまった。
あまり勉強が好きではない朱音にとっては、苦痛の期間である。
前に母に言われたように、勉強の出来はそこまで良くない。今の調子だと恐らく、ギリギリ赤点を取るか取らないかの出来である。
そのような出来であるから、安心しようにも出来ない。そして、このままでいくと、補習を受けさせられることになり、そうしたら紫音に会いに行く日が無くなってしまう。
そんなの、嫌だ。
だから。
「紫音様。勉強を教えて下さい」
「··········は?」
来て早々、スライディング土下座を決めた朱音に、いつものように──いつも以上に、低い声で返事をされる。
あ、これは、ヴァイオリンを弾いている最中なのに、話しかけられて怒っているのか、言ったことに何を言っているんだなのか、突然スライディング土下座したのが意味分からないことなのか、それとも全てことなのかは分からないが、何か文句言いたげなのかは分かった。
土下座したままじっと言われるのを待っていると、楽器ケースの鍵を開ける音がした。
興醒めしたから、もう帰るということなのか。
朱音としては、もう少し一緒にいたいと思っていたので、残念に思っていた。
「──で、どこを教えてもらいたい」
朱音のそばに座った気配を感じたことに、疑問符を浮かべているとそんな言葉が降りかかり、さらに疑問符を浮かべた。
「へ?」
「へ、じゃないだろう。俺に教えてもらいたいじゃないのか。土下座までして、お前にプライドはないのか。·····いつから、そんなやつになったんだが」
「え?」
「··········べつに」
ともだちにシェアしよう!