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3-5
「こないだやったテストを返すぞ。呼ばれたやつから取りに来い」
教科担任がそう告げて、一人一人名前を呼んでいく。
この教科も紫音に教えてもらったものだ。
が、どんなに丁寧に教えてもらっても朱音の頭が理解出来ず、投げ出しそうになっていた。
とはいえ、紫音の気持ち良さそうな声につられていたせいもあるが。
「朝田」
「あ、ハイ!」
緊張した面持ちで解答用紙を受け取った。
歩きながら、『朝田朱音』の横をゆっくりと視線を向ける。
その間の心臓のバクバクが半端ない。
「えっ!」
「どうした、朱音」
大野の席に差し掛かった時、思わず声を上げてしまったものだから、大野が「まさか、赤点か?」と立ち上がり、解答用紙を覗き込んでくる。
「·····って、なんだ。全然赤点じゃねーじゃん」
つまんねーと言わんばかりに朱音から離れた直後、大野は呼ばれ、去っていく。
赤点じゃない。
点数見た時自身の目を疑ったが、大野に言われて、そうじゃないことを確信した。
赤点じゃない。
「〜〜っ! っしゃー!」
「朝田、うるさいぞ」
「さーせんー!」
先生に注意されても弾んだ声を上げたことにどんだけ嬉しいと思ってんだと自身に突っ込んだ。
席を着いて改めて見ても、赤点ギリギリでもなく、かと言って、とても良い点でもない、微妙な点数。
それでも今の朱音にとっては、とても嬉しい点数だった。
「あーー! 赤点じゃねーか!」という大野の嘆きが聞こえるが、朱音の耳には周りの同級生の声に紛れて、聞こえてなかった。
紫音のこと以外、何に対してもさほど興味の持てなかった朱音が、紫音に勉強を教えてもらったとはいえ、頑張った結果がこうなったのだから、この時、勉強が楽しいという気持ちが湧いてきた。
これも紫音のおかげだ。
『諦めるな。何度もやれば分かってくる』
同じところを根気よく何度も教えてもらい、それでも「分からない!」「無理っ!」と投げ出していた朱音に紫音が投げかけた言葉。
その時、朱音の頭を撫でようとしたのか、手が顔辺りまで上がっていたものの、はっとした顔の紫音を不思議な目で見たことも思い出した。
紫音はことあるごとに頭を撫でてきていた。
一緒におやつを食べて、笑顔を向けた時、ご飯を食べていて、「おいしい?」と訊ねられ、「おいしい!」と言った時、「いってきます」や「ただいま」の時までも。
けれども、全く嫌ではなかった。紫音の慈しむような手、優しく微笑んでくるから、嬉しくてされるがままになっていた。
あの時、何故かしてくれなくて残念に思ったが、どうしてしてくれなかったのか。
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