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身支度を整え、それぞれ帰路へと足を向ける中、朱音は逆らうように皆とは反対に歩いていく。
友人らはさも当然のように、帰りに寄り道することを誘ってこようとしたが、大野の一言により、その口元を緩ませ、「楽しんできてな〜」と言って、別れた。
その時の笑い方が薄気味悪いことを思い出し、余計なことを言いやがってと、心の中で毒づく。
そうなった事の発端は、あの後、授業が終わり、授業との合間の休み時間に話の続きをしていた時の話だ。
話題は、やはり、何故朱音だけ赤点ではないのか。
朱音にとっては、そこを掘り下げる程面白くもなく、至極どうでもいい話だったので、適当に相槌を打とうとしていたものの、大野の一言によって、騒ぐ羽目になった。
『紫音先輩に教えてもらったんだろ』
他の友人は『紫音先輩?』と首を傾げていたが、朱音は『だったらなんだよ』と少々苛立ち気味に返したことにより、からかいの対象にさせられ、誰にも紫音のことを教えるんじゃなかったとあの時のことを思い出し、後悔のため息を吐いた。
と言っても、どうしたって気づかれてしまうのがオチだが。
こうなってくると、毎日のように会いに行かない方がいいかなと、ふと思う。
特にこれといって、毎日行く、という約束はしてない。放課後になると、紫音が屋上に必ずと言っていいほどいるから行っているぐらいなもので。
歩む足が少しずつ屋上への階段に近づいていく。
その階段からいつものように覗きに来ている女子生徒らが、朱音のそばを横切る。
「新倉先輩の演奏を間近に聞いてみたいけど、近寄りがたいオーラがあるよね」
「わかる〜! だから、辛うじて見えるか見えないかぐらいの距離で見るしかないんだよね・・・・・他で聞けないかな」
「んー・・・・・文化祭、とか・・・・・?」
遠ざかり、しかし、廊下に響く声を背に聞きながら、胸を反らしたい気分になった。
自分が紫音の間近で唯一聞ける特権があるんだぞ、と。
それにしても、紫音は下級生にも人気があるのが凄いと思う。だから、そこまでの実力があるのだから、大学に行って能力を伸ばせばいいのに。
行かない理由って、何だろうか。
何にも得意とも言えない者からしたら、羨ましいのだが。
階段を上り、屋上への扉を開ける。
ちょうど弾き終わったタイミングらしく、ケースにしまう姿が目に映った。
弾いている姿、旋律を聞きたかったのになといじけながらも、その背に声を掛ける。
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