26 / 113

3-8

「・・・・・今日も来たのか。そんなにも暇なのか」 「暇っていうよりも、紫音に会いたいからって理由じゃダメか?」 サラっと紫音にそう言うと、しまう手が止まった。 どうしたものか、と覗き込もうとした時、「・・・・・来ても面白くないだろ」とボソッと言い、再び手を動かし始めた。 今のは何だったのだろう。 首を傾げながらも、「そんなことはない」と返した。 「それよりも! 今日、テストが返されたんだけど、全て赤点じゃなかったんだ!」 カバンから全教科の解答用紙をその背に見せつける。 と、しまい終えたらしい紫音が、やっとこちらに、一瞥だけした。 「・・・・・良かったな」 「これも全て、しおんにぃのおかげだ! 本当にありがとう!」 少しだけ顔を向けた紫音に満面の笑みでお礼を言った。 すると、目が見開いたかのように見えた。 しかし、驚きで瞬きをしてしまった間に、顔を逸らしてしまった。 「・・・・・しおんにぃ、じゃないだろ」 「・・・・・え、あっ! またそう呼んでた!? ついつい、呼んでしまうなぁ・・・・・」 はは・・・・・と力のない笑い方をして、頬を掻く。 また怒らせてしまったかなと、緊張した面持ちで相手の様子を伺っていると、「・・・・・どうでもいいが」と独り言にも似た言い方をした。 とりあえず怒ってない様子に安堵した朱音は、解答用紙をカバンに戻し、何となくその場に座った。 「まだ、何か用があるのか」 「あ、いやっ! え・・・・・まあ・・・・・」 視線を忙しなくさ迷わせたのち、意を決した口を開く。 「あのさ、昔、紫音の真似をして、幼稚園生用の通信教育をやってたの、覚えてる? それのひらがな書く練習で、一文字書いたごとに紫音に見せてさ、上手に書けたねって、頭を撫でられるのがめちゃくちゃ嬉しくってさ! こないだ教えてもらった時に、その事を思い出して、あの頃の嬉しい気持ちが出てきたんだ。その頃の楽しいっていう気持ちがずっと続いてりゃ、今頃、しおんにぃに教えて貰うことはなかったんだけど。あ、けど! それはそれで、俺は嬉しい」 あの頃のことを思い出せば出すほど、いつものように話す口が止まらない。だが、嬉しくてたまらなくて、制止されてないことをいいことにどんどん話してしまう。 そうして、自分で言っていて、そうだったと思った。褒められて嬉しいと思ったことがあったのだ。その気持ちがずっとあれば、勉強に少しでも興味は持てたのになとも。 そうならなかったのは、紫音が朱音の前からいなくなってしまったからで。 あー、このことも結局しおんにぃに関係あんのな、と小さく笑っていた。

ともだちにシェアしよう!