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「今は、嫌いじゃない」
様子を伺っていた大野にそう告げると、「は? なんだそれ」と納得しないという顔をした。
「兄弟じゃねぇから、そう思ったわけ?」
「そういうわけじゃねぇ。なんというか⋯⋯あの頃よりも、複雑になった⋯⋯というやつだ」
「ふぅん?」
納得したような、してないような、そんな返事をしながら、背もたれに手を置いて、背中を反らす。
だが、朱音はその時見たのだ。大野が何だか面白いものを見つけたというような顔をしていたことに。
「けど、そんな関係でも、相変わらず会いに行ってんだもんな。ふーん。ふぅーん?」
「なん、なんなんだよ」
「別ぃ? 面白いことになりそうだなと思ってな」
大野自身が言ってきたことで確信した。これからの紫音との関係の変化によっては、オモチャにされることを。
元から相談する相手を間違えたなと、心の中で舌打ちし、これからは出来る限り言わないようにしようと心に誓った。
「それよりも、日誌を書いたらどうだ?」
「あっ!すっかり忘れてたじゃねーか!」
筆箱からシャーペンを取り、慌てて書き始める。
一限目は何だったかと考えている時、ふと、手を止めて、顔を上げる。
「てか、お前が余計なことを言うから、書くの忘れたんじゃん。お前が代わりに書けよ」
「責任転嫁はやべぇな。お前が夢を見たから、そんな話になったんじゃん」
「・・・・・うっ、うっせー」
図星であった。元はと言えば、自分が見た夢のことを忘れられず、大野にその話題をしたから、口が止まらなくなっていたのだ。
ダメだ。本当に紫音のことになると、周りのことも見えなくなる。
今は目の前の日誌を書くことに集中せねば。
一呼吸すると、再び一限目は何だったかと考え、書き始める。
「そういえば、最近屋上に行ってみないじゃん? なに? ケンカでもした?」
「するわけねーじゃん」
「おお? 言い切るねぇ。じゃ、なんなん?」
「ただ雨続きだから、行かないだけ」
「ふーん⋯⋯」
自分から訊いてきたのにも関わらず、そこまで興味がないような気のない返事をしたまま黙った。
よし、このまま黙ってくれよ。
二時限目まで書き終わり、三時限目もささっと書いていた時、「ん?」と疑問符を浮かべる大野の声が聞こえた。
「てかさ、なんで屋上って決めてるの? 別に他にすればいいじゃん」
四時限目に差し掛かった時、手を止めることとなった。
「大野」
「ん?」
「それ、いいアイディア」
思わずシャーペンで大野のことを差すと、大野はにこっと笑った。
「お前、バカか?」
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