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「てか、そうだ。紫音先輩と楽しくお喋りしている場合じゃないじゃん。朱音、どうすんだよ」 「⋯⋯っ、どうするって、そりゃあ、まあ⋯⋯」 「⋯⋯俺は別に気にしてない」 大野の手から解放され、一瞬大野のことを睨みつけながらも、どうすべきか考えようとした時、こちらに振り向かずにそう一言だけ言って去ろうとしていた。 その紫音に「待って!」とすかさずその手を取った。 「俺がめっちゃ気にするから! 俺のせいで風邪でも引いたりもしたら、それこそ後味悪いし⋯⋯」 「そこまで俺はヤワじゃない」 「だけど⋯⋯っ!」 「⋯⋯もう、いいか?」 「⋯⋯あっ」 振り払おうとしたのを必死になって掴み、「じゃあ!」と声を上げた。 「俺ん家に泊まらない?」 紫音は大きく体を震わせ、大野は「おぉ?」と囃し立てるような声を発したことにより、自身の無意識に出た言葉に驚いていたが、前言撤回はしなかった。 「そうすれば、もし風邪を引いたとしても看病できるな! とは言っても明日も学校だから、親にやらせることになるんだけどな」 「⋯⋯どうして、そういう発想に」 「昔みたいにしおんにぃを看病したいとも思ったんだ。あの時は、どうやって元気になるかと思って、すげー冷えピタ貼りまくってたけど、今はちゃんと出来るからさ!」 「冷えピタ貼りまくるとか、おま⋯⋯っ」 「るせー! 大野は黙ってろ!」 肩を震わせて笑う大野に、そういえばいることを忘れてたと昔の自身の行いを暴露してしまった恥ずかしさも含めて、その背中を叩いていると、紫音がぼそっと呟いたのが聞こえた。 「しおんにぃ⋯⋯?」 「⋯⋯泊まってやる」 「⋯⋯え?」 泊まってやる。 本当に? その意味で聞き返したものの、聞こえなかったと思われたらしい、「聞こえてなかったのならいい」と言い残して、一人でさっさと行こうとしていた。 「あ、しおんにぃ!」 足早とその後を追いかけていると、携帯端末を弄っている姿が見えた。 「何しているんだ?」 「⋯⋯急に、泊まることになったんだ。一応家に連絡しておかないといけないだろ」 「そっか。それはごめん」 淡々とした言い方にまた怒らせてしまったかとしゅんとしている朱音の後ろに追いついた大野は、「俺、邪魔だったら、先に帰るけど?」と笑い混じりに訊いてくるのを、「まだいてくれ」と返し、黙り込んだ。 その朱音のさっきとは違う態度に、何かを察したのか、大野は途端に笑うのを止め、違う話題をし始めた。

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