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そんな失礼なことを思っていると、大野が降りる駅に着くアナウンスが流れる。
ひーひーと言う大野に、「大丈夫かよ。俺、一緒に帰れないからな」と言うと、先ほどの好青年が、「俺達ここで降りるので、一緒に帰りますよ」と言って、自身の肩に大野の手を回した。
「あ、お願いします」
その青年は振り向きざまにこやかに笑い、もう一人の大野を笑い地獄にした学生は、無邪気な顔で手を振っていた。
それを見えなくなるまで手を振り返した後、「騒がしかったな」と手を下ろした。
「さっきの、そこまで面白かったか? な、しお⋯⋯紫音はどう思う?」
「⋯⋯別に」
「そ、そっかぁ。そうだよな。そうでもないよな、ハハ、ハ⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
空笑いをしながら、ちらりと紫音を見やると、ピクリとも表情を動かさない紫音は、降り続ける窓の外の方へと目を向けていた。
ヴァイオリンを弾いている時とは違う、読み取れない表情に、一体何を考えているのだろうとそのまま見つめていた。
と、視線で気づいたらしい、「何見てる」と目線だけ動かした。
「あ、いや⋯⋯あ、さっきのやつらの学校が頭良いって言ってたよな。紫音もあの学校の方が合っていたんじゃないか? 俺らの学校あまりにもバカすぎて、紫音にとってはつまらなくないか?」
「⋯⋯俺は特に勉強が好きというわけじゃないからな」
「え、そうなのっ?」
初耳だ。だが、朱音のテスト勉強をあんなにも丁寧に分かりやすく教えてくれたのであるのなら、別に嫌いというほどではないのではと、勉強が出来ない人間からしたら思う。
その旨を伝えると、一拍置いた後、言った。
「勉強が好きじゃないしろ、授業内容が中学で習ったことの復習ばかりだ。それに、一年の内容をやった者からしたら、やれて当然の内容だ」
「あ、そっか」
腑に落ちた。よく考えてみれば、授業中がそのようなばかりであった⋯⋯はず。だから、最低でも朱音よりかは断然出来る紫音にとっては、欠伸が出るほど退屈なもののようだ。
「だったら、なおさらさっきの学校みたいな所に行けばよくね? 俺なんて今までちゃんと勉強してこなくて全く分かってないから、ちょうど良いちゃ、ちょうど良いんだけどさ」
「⋯⋯自分でこうしたいと思ったから、こうしたまでだ」
僅かに声色が変わったことに、また余計なことを言ってしまったかと、噤む。
どちらとも何も言わずにいると、朱音の最寄り駅である場所に着くアナウンスが流れ、「次、降りるから」ととりあえず言うが、紫音は黙ったままだった。
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