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二人は降り、他の降りた客と共に流れに沿って改札口を通り、駅構内を出る直前に傘を差し、朱音の家へと目指す。 その間何も話さずにいるのも居心地悪いと感じた朱音は、迷っていた口を勢いよく開けた。 「あ、あのさ! 俺ん家、昔から変わらずの場所なんだわ。後々知ったんだけどさ、紫音の家、隣だったんだな。今は違う人が住んでいるんだけど。だとしたら、俺が覚えてないだけで紫音の家にも行ったことがあるのかなーなんて──」 「──行ったことはない」 朱音の言葉を遮ってまでそう断言されたものだから、「あぁ⋯⋯そうなんだ⋯⋯」と落胆とも言える口調で言い、黙り込んだ。 そんなにはっきりと言わなくてもいいのに。 アスファルトに次から次へと落ちていく雫を見つめ、落ち込みかけたものの、己を奮い立たせ、話を続けた。 「梅雨の時期になってから、放課後に屋上には行ってないんだけどさ。紫音はその時どーしてんの?」 「家に帰っている」 「そうなんだ。あ、そういえば、家ってどこに住んでんの? あの後、親に訊いてみたんだけど、知らないみたいだし。ちょっと知りたいなーって⋯⋯」 「⋯⋯」 「⋯⋯あ。えーと、今日、ヴァイオリン持ってないんだな! やっぱり、弾く場所がないから、持ってきてないってこと?」 「⋯⋯そう」 歩行者専用信号に差し掛かり、ちょうど赤になったので二人は立ち止まった。 大した時間ではないのに、この時ばかりは長く感じる。 早く変わらないかと思いながら、次は何を喋ろうか必死になって考える。 その時、一台のトラックが勢いよく走っていたためか、二人の目の前の大きな水溜まりに入り、大きな水しぶきを上げた。 だが、朱音は気づくのが遅かったために、もろに受けることになった。 「うっわ⋯⋯! マジ、サイッアク! マジ、ありえねーわっ! あのトラック野郎、マジクソじゃねーの!?」 すっかりびしょ濡れとなったシャツを見下ろして、ありったけの悪態を吐いた後、「はぁー⋯⋯怒られる⋯⋯」と肩を落とした。 「これじゃあ、紫音よりも俺が風邪引くな⋯⋯。あー、もう、しょうがねぇ!」 青信号になったのを見計らい、傘を閉じると、一目散に横断歩道へと大股で飛んだ。 バッシャーンっ! 大きく水しぶきを上げ、飛び散っていく前に、もう片足を大きく開き、前へと飛んだ。 バッシャーンっ! 降り続ける雨と同様、朱音の全身を濡らしていくが、ヤケになっていたのもあって、どうでもよくなっていた。 が、何度もその行為をしていくうち、また夢のことを思い出していき、童心に帰ったような感覚を覚え、段々と楽しくなっていくのを感じた。 明日なんて知らない。今を楽しもう。

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