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揺れる振動が心地よく、まどろみ始めた頃、その振動が止まり、はっと顔を上げた。
「そういえば! 俺の家、知って──あり?」
拍子抜けた声を上げてしまった。
目の前にに広がる光景──自分の家に辿り着いていたからだ。
どんなに目を擦っても、自分の家であることは変わりないし、表札を見ても『朝田』と明記されていた。
「え、紫音。10年以上前の場所を覚えてるの⋯⋯?」
「⋯⋯覚えている」
「え、すご⋯⋯。やっぱ、頭、良⋯⋯」
ようやく返事してくれたことに驚きと嬉しさを混じえた賞賛を上げていると、「入るぞ」と紫音が言ったことにより、少しばかりオシャレな作りの門を開いて、玄関を潜った。
「ただいまぁー」
「あら、おかえり⋯⋯って、あんた! 何そのずぶ濡れは!! どこで遊んできたのよ!」
「これは、トラックにやられたんだって! 俺のせいじゃないし!」
「いいから早く、そのままお風呂に行きなさい!」
「わーったよ⋯⋯」
全く、うっせーなとぶつぶつ文句言いながら、傘を傘立てに差し、すぶ濡れとなった靴を脱いでいると、「ところで、隣にいる子は友達?」と母が訊ねてきた。
「⋯⋯って、あら、どっかで見たことがある顔ね。どこでかしら」
「この家に一緒に住んでた、しおんにぃだよ」
「しおんにぃ⋯⋯ぁ! 紫音君ね! あらあら、こんなに大きくなって! 昔から、顔がいいって思ってたけど、ますます良くなっちゃって!」
「⋯⋯いえ、どうも」
「あら? 紫音君も濡れちゃっているじゃない! 朱音! 紫音君をまたそうやって、無理やり水溜まりに入れたの!?」
「入れてねーし! 俺がやったといえば、やったけど!」
「朱音っ!」
母の怒鳴り声を背に、脱衣所の扉をさっさと閉めると、張り付いて不快感を覚えるシャツを脱ぎ、洗濯機に放り投げる。
「入れてねーしって、とっさに言ったけど、何のことだ?」
ズボンのポケットから、携帯端末を取り、それをカゴに置いた後、ベルトを付けたままズボンを脱ぎ、洗濯機の前にそのまま置いていく。
「俺、しおんにぃを無理やり水溜まりに入れたことってあったっけ」
放課後見た夢でも遠巻きに見ていたはずで、朱音がそうした記憶はない。
「俺が憶えてないだけ⋯⋯?」
下着を脱ぎ、洗濯機に入れると、風呂場に入り、湯船の栓をし、スイッチを押す。
お湯が出てるのを確認した後、シャワーを出し、頭から濡らしていく。
むわっとした熱気を感じる日々で、シャワーの温度さえも熱いと思っていたが、やはり、雨に濡れて冷たくなっていたせいか、今は心地よく感じる。
心地よいといえば、紫音に抱き寄せられていた時。あの時は、いつも感じていた蒸し暑さが一瞬感じなくなり、紫音の温もりをいつまでも感じていたいほどの心地よさで、一瞬寝かかったぐらいだった。
あの、温もりをまた感じたい。
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