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すると、紫音は一旦茶碗と箸を置いた。
「そうですね⋯⋯。よく笑っている子です。こちらがつられてしまいそうになるぐらい、笑顔が素敵な子なんです。どんなことをしても楽しそうで。僕には眩しいぐらいの子です」
朱音と話している以上に長く話す紫音に、軽く落ち込みながらも誰なのかと推測する。
放課後になるとよく覗きに来る女子達の中にいるのか、はたまた同じクラスの人か。
「へぇー⋯⋯そう。紫音君、本当にその子が好きなのね。顔がにこやかだわ」
「えっ! しおんにぃが!」
母の言葉に驚き、バッと紫音の方を見たがよく見る硬い表情だった。
「ちげーじゃん」
「あら、ふふ。⋯⋯そう。私の間違いだったかしら」
ほほほ〜、と普段ならばそんなことはしない、口に手を当ててわざとらしく笑う母の仕草に、「あっそ」とそっぽ向いて食べ始める。
「そういえば朱音。紫音君から聞いたけど、家に泊まらせるって言ったみたいじゃない」
「そうだけど?」
「そうだけど、じゃないわよ。そういうのは一応前もって言いなさいよ。服とか布団とか用意しとかないといけないんだから」
「ほいほい」
「全く⋯⋯まあ、いいわ。朱音の服がちょうどいいサイズであったことだし、部屋はそうねぇ⋯⋯一緒に寝てもらえばいい話だし」
「⋯⋯へ?」
箸で掴んでいたご飯が落ちた。
「今、なんて?」
「だから、あんたの部屋に紫音君は寝てもらおうと思って」
にこにこにっこり。母がこれは名案だと言わんばかりに言った。
いやいやいやいや。
「いやいや⋯⋯いや、なんで俺の部屋っ!?」
「なんで? 何か都合の悪いことが?」
「あ、いや⋯⋯都合は全く悪くないけど、さ⋯⋯俺の部屋でいいの?」
「何言ってんの。他に部屋は無いし、かと言ってソファに寝かせるわけにはいかないでしょ」
「⋯⋯う、まあ⋯⋯そうだけど」
「いいじゃない。昔はよく『しおんにぃとねるー!』って言って、同じ布団で寝るぐらいだったんだから。その前はお父さんと一緒に寝てたのに。ねー? お父さん?」
「そうだなー⋯⋯寂しかったが、仕方ない」
「いや、なんかごめんっ!?」
昔の話をされて、恥ずかしさと父が酒が入っているせいか、涙ぐんでいるのもあって申し訳なさもあった。
言われてそういえば、紫音と同じ布団で仲良く寝ていたことは憶えていたが、逆に父と一緒に寝ていたことはこれぽっちも憶えてない。
が、昔と今では話は別だ。特に今の状況は。
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