46 / 113

4-19

すると、紫音は一旦茶碗と箸を置いた。 「そうですね⋯⋯。よく笑っている子です。こちらがつられてしまいそうになるぐらい、笑顔が素敵な子なんです。どんなことをしても楽しそうで。僕には眩しいぐらいの子です」 朱音と話している以上に長く話す紫音に、軽く落ち込みながらも誰なのかと推測する。 放課後になるとよく覗きに来る女子達の中にいるのか、はたまた同じクラスの人か。 「へぇー⋯⋯そう。紫音君、本当にその子が好きなのね。顔がにこやかだわ」 「えっ! しおんにぃが!」 母の言葉に驚き、バッと紫音の方を見たがよく見る硬い表情だった。 「ちげーじゃん」 「あら、ふふ。⋯⋯そう。私の間違いだったかしら」 ほほほ〜、と普段ならばそんなことはしない、口に手を当ててわざとらしく笑う母の仕草に、「あっそ」とそっぽ向いて食べ始める。 「そういえば朱音。紫音君から聞いたけど、家に泊まらせるって言ったみたいじゃない」 「そうだけど?」 「そうだけど、じゃないわよ。そういうのは一応前もって言いなさいよ。服とか布団とか用意しとかないといけないんだから」 「ほいほい」 「全く⋯⋯まあ、いいわ。朱音の服がちょうどいいサイズであったことだし、部屋はそうねぇ⋯⋯一緒に寝てもらえばいい話だし」 「⋯⋯へ?」 箸で掴んでいたご飯が落ちた。 「今、なんて?」 「だから、あんたの部屋に紫音君は寝てもらおうと思って」 にこにこにっこり。母がこれは名案だと言わんばかりに言った。 いやいやいやいや。 「いやいや⋯⋯いや、なんで俺の部屋っ!?」 「なんで? 何か都合の悪いことが?」 「あ、いや⋯⋯都合は全く悪くないけど、さ⋯⋯俺の部屋でいいの?」 「何言ってんの。他に部屋は無いし、かと言ってソファに寝かせるわけにはいかないでしょ」 「⋯⋯う、まあ⋯⋯そうだけど」 「いいじゃない。昔はよく『しおんにぃとねるー!』って言って、同じ布団で寝るぐらいだったんだから。その前はお父さんと一緒に寝てたのに。ねー? お父さん?」 「そうだなー⋯⋯寂しかったが、仕方ない」 「いや、なんかごめんっ!?」 昔の話をされて、恥ずかしさと父が酒が入っているせいか、涙ぐんでいるのもあって申し訳なさもあった。 言われてそういえば、紫音と同じ布団で仲良く寝ていたことは憶えていたが、逆に父と一緒に寝ていたことはこれぽっちも憶えてない。 が、昔と今では話は別だ。特に今の状況は。

ともだちにシェアしよう!