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「てか、風邪引いたかもしれないやつと一緒の部屋に寝たいと思うか?」 にこりと表情をしたまま固まった。 図星なのであろう。 あの母を黙らせることが出来た!と内心ガッツポーズをしていたところ、母が間髪入れず口を開いた。 「それは⋯⋯」 一拍置いて、言った。 「紫音君に看病してもらえばいいじゃない」 「なんでそうなるっ!」 直後、興奮してむせたのか咳き込んでいると、「本当に風邪かもしれないじゃないの」といくらか心配そうな声を出していた。 「興奮してむせただけ⋯⋯と言いたいところだが、言われると寒気もするような⋯⋯」 「あらやだ。熱も出てきているんじゃないの。自分のところで横になってなさい。後で氷枕持って行くから」 「うん、分かった」 さっきのふざけた言い方とは打って変わって、本気で心配していると分かる声音で言われたものだから、素直に従い、「ごちそうさま」と言ってリビングを後にしようとした。 「上に行く前に歯を磨きなさいよ」 「分かってる」 「いい夢見ろよ〜」 「父さん、酒呑みすぎだろ」 軽い突っ込みをしつつ、部屋を後にし、洗面所に向かい、歯を磨く。 流れで結局、紫音と一緒に寝ることになってしまった。とはいえ、こちらは病人であるはずだから、「話すのしんどいから」と特に何か話さずに眠ればいいわけだから、そこまで気まずさは覚えないはず。 あの時、むしゃくしゃして傘を差さずに水溜まりに入って良かったわ〜。自分の体を犠牲にしたけど。 磨き終わり、階段を上り、自室に向かうと今度は電気を付け、ベッドに寝転んだ。 枕元に置いていた携帯端末を何となく見ると、ストラップが照明の光に当てられて輝いていた。 ──よく笑っている子です。 紫音の声が頭に響いた。 今思うと、あの時の声が母と話している時よりも慈しみのある柔らかい声であった。 その『好きな子』のことを思い浮かべながら言っているのだろう、本当に心から好きだと伝わるものだった。 青春してるなと、紫音が楽しそうにしているのなら良かったと自分のことのように安堵していた。 朱音の前では、表情筋を無くしたのかと思うぐらい動かないし、あったとしてもヴァイオリンを弾いている時の悲しそうな表情ぐらいなもので、母が見たという、にこやかな表情は見たことがなかったからだ。 自分には見せてくれなくてとても残念だが、紫音が何かに対してそうなるのなら。 うとうとし始め、その眠気に抗えなくなった朱音は、瞼を閉じた。

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