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次に目を覚ました時は朝で、すぐそばにいた紫音の影も形も無かった。
今日も学校であるから行ったのだろう。そう納得はしているが、少し寂しく感じる自分がいた。
昨夜、撫でられていた頭にそっと手を置く。
あの感覚がまだ残っているような気がして、けれども、紫音が言っていたように夢の中の出来事のような気もして、現実味が無かった。
テスト結果を見せた時は乗せられただけであった手。それがいつまでも撫でてくれたのに。貴重な瞬間だったのに。
残念だ。
肩を落としたと同時にため息を吐くと、扉が突如として開かれた。
紫音かと思わず背筋が伸びたものの、入ってきた人物を見て、「なんだぁ」と声が出ていた。
「なんだってなんなのよ。人がせっかく心配して見に来たのに。そんな感じじゃ、今日は学校に行けたのかしらね」
「頭痛いから無理っす」
「ただの寝すぎじゃなくて?」
こちらに歩いてきた母に、ぬるくなった冷えピタを剥がし、額を触ると、「これはまだ熱があるわね」と手を離した。
「全く、水遊びしているからこんなことになるのよ。分かってる?」
「⋯⋯返す言葉もございません」
「とりあえず、今日も安静にしているのよ。で、ご飯は食べれるの?」
「多分、粥ぐらいなら」
「そう。じゃあ、後で作って持ってくるわね」
「ん」
踵を返し、部屋を去ろうとする母に「しおんにぃは?」と訊ねる。
「今日も学校だから行ったわよ」
「あ、そう⋯⋯」
何を当然なことを、と言いたげな母に、無意識に発していた落ち込んだ声音に小さく苦笑していた。
「ああ、でも。制服のお礼や朝食もそこそこに、氷枕を交換しに行って、しばらくしても戻ってこないから一声掛けようと行ってみたら、寝ているあんたのそばにいたのよね」
「え? しおんにぃが?」
「ええ、そうよ」
自分が馬鹿なことをして呆れて、てっきり、起きてさっさと行ってしまったのかと思っていたが、あの時のようにずっといてくれたとは。
じんわりと心が暖かくなるのを感じる。
しおんにぃ⋯⋯。
「紫音君が少しの間、ウチに預けられていた時、朱音がものすごい熱を出したことがあったのよ」
「え、そうなの?」
「そう。いつもなら熱でもはしゃいでいる子が、本当に苦しそうで。お医者さんに診せても、ありきたりな言葉しか言ってくれなくて、お父さんとこれ以上にないぐらい悲しんだわ」
「そんなことが⋯⋯」
「けれどね、私達以上に悲しみに沈んでいたのはあの子だった。紫音君が熱を出してあんたが一時も離れようとしなかった時のように、ずっとそばを離れようとしなかった。手まで繋いでね」
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