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ああ、やっぱり。 しかし、どうして大野に言うきっかけが生まれたのだろう。 その疑問を大野に聞くと、すぐに返信が来た。 『朝、教室でダチとしゃべっていたら、女子達が急にキャーキャー言うもんだから何かと思えば、紫音先輩がいたわけよ。そしたら、俺が呼ばれて、お前が熱で休むから先生に代わりに伝えてくれって、言いに来たみたいで。その時にどうしてそうなったのか、聞いたわけだ』 休む連絡なんて親にしてもらえばいいというのに、それにだって一学年の階は四階であるから、上る手間だってあるのに、そこまでしてくれるとは。 ──本当の弟のように可愛くて仕方なかったわけ。大好きなのよ。 「大好きだから⋯⋯」 その気持ちがむず痒くなり、足をもぞもぞさせる。 と、通知が来たことを知らせる音が鳴ったことで、パッと画面を見る。 『そうそう。その時に先輩が朱音の連絡先を教えてくれって言われたから交換しておいたわ』 「えっ?」 『そんでもって、紫音先輩の』 何を勝手な。 驚きと少々の怒りを混ぜた感情のまま、紫音の連絡先だというメッセージのアイコンを見て、固まった。 それは元は朱音のであった、今は紫音が持っている歪な形のストラップと、昔観てた戦隊の武器の玩具だった。 昔、夢中になって観ていた戦隊モノ。ねだって、ロボットやら武器やら買ってもらった記憶はある。 今はそれらをどこにやったかは忘れてしまったが。 紫音と観ていたことがあったような。 しかし、どうしてそのようなモノをあのストラップと共にアイコンにしているのか。 『愛しのお兄さん(元)にメッセージ送れば?(笑)』 『やかましいわ』 『おー怖い怖い。授業始まるから、また後でな』 授業中でも携帯端末を弄っているの見たことあるぞと、送ってみたもののすぐに既読しなかったことから、前回のテストで危機感を持ち始めたのかと思い、それ以上は送らないでいた。 改めて紫音の連絡先を見る。 何度見ても不思議な組み合わせだ。何ら関係なさそうに思えるものだが、あるとしたら、朱音と関係あるもの。 大野に勧められたこともあり、それも聞きたいがために登録し、メッセージを送ろうと文字入力を出したものの、いざそうなると指がぴくりとも動かなかった。 緊張している。 数分経っても一文字打てずにいるのは、未だ頭が痛いせいで何も考えられないからだと自分に言い聞かせ、チャットアプリを閉じ、気分転換に動画アプリを開いて観ていると、母がお盆に乗せた粥を持ってきて、それを食べ、母がいなくなったタイミングで動画を観ながら、これを観たら送ろうと思っていたが、やはりする気には起こらず、今度はこの動画、次はこの動画と、ズルズルと引きずっているうちにその日は一言も送らずに一日が終わっていたのであった。

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