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次の日になると、熱は下がり、学校に行ける状態になっていたが、心のモヤモヤ感は拭えなかった。 その気持ちが顔にも出ていたようで、「まだどこか具合が悪いの?」と母に言われたことにより、全力で否定し、朝食をさっさと済ませ、逃げるように家を出て行った。 久しぶりに見た、晴れた空。 雲の方が多いけれども、雨が降っているよりかはだいぶマシな天気である。 だいぶ降っていたと物語る、アスファルトに大きな水溜まりがあちこちとあり、それに反射して空が映し出されていた。 水溜まりを何となく避けながら、駅を目指している最中、登校中の小学生二人が水溜まりを覗き込んでいる姿を見つける。 「ねぇ! 水たまりに空があるよ!」 「本当だー! 入ったら、あの雲の上に行けるのかな?」 「行けるかもー! 一緒に入ってみようよ!」 「うん! じゃあ、いくよー!」 「「せーの!」」 バシャン! と大きな音を立てて、小学生らは水溜まりに入るが、「あれ?」と不思議そうな声を上げていた。 「行けないね」 「なんでだろう」 二人がしばらく水溜まりに入っているのを、朱音は微笑ましいという表情で横切った。 ──しおんくん、もしかしたら、あのおそらにいけるかもよ! ぴたり、と踏み出しかけた足が止まる。 なんだろうか、いきなり。 あ、でも、何か思い出しかけ──。 ポケットに入れていた携帯端末が震えた。 すぐさま取り出し、メッセージを見た。──が、その時見たアイコンと名前で、「え?」と声を上げた。 それは、朱色のストラップと玩具という不思議な組み合わせの、紫音からの通知だった。 『熱は下がったか』 たった一言。その短い文が送られてきただけだった。 が、しかし。その短い文でも、紫音の気遣いが感じられ、嬉しい気持ちでいっぱいになった。 『おはよ。熱下がった! 紫音のおかげでよくなった! ありがとう』 『嬉しい』と言っている柴犬のスタンプを続けて送った。 すぐに既読はついたものの、返事は来なかったが、それでも見てくれただけでも良かったと、笑みを浮かべて携帯端末をポケットに入れ、駅へと向かうため歩き始めていると、先ほどの小学生二人が朱音の横を駆けていく。 水溜まりで濡れることを気にせず。 その際に入った水溜まりに波紋が広がり、映った空が揺らめいた。 それとなしに朱音も足先でつっついていると、ついさっきと同じように揺らめく。 ふっと、あの日に見た夢の自分が脳内に浮かんだ。 雨上がりの空の下、水溜まりの前をじっと見つめる自分の姿と、紫音。 さっきの小学生と同じようなことでもしていたのか。 妙に納得しつつ、立ち止まっていた足を動かす。

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