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駅に着き、改札口を潜り、階段を降り、ホームで電車が来るのを待つ。 一昨日見た時と同じような朝の光景。 仕事内容らしいことを電話越しで話すサラリーマン、「今日もジメジメしていて暑いけど、もうすぐ夏でそれはそれで暑いよね」と気だるそうに友人に話す学生。 その会話を何となしに聞き、もうそんな時期かと思った。 宿題があるのか、だるいな。ただ遊ぶことだけを考えていたい。と、その前に期末試験があるのか。また紫音に教えてもらおうかと甘い考えをしている朱音がいるホームに電車が来るアナウンスが流れた。 そして、停止位置にきちんと止まった電車が扉が開かれると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。 それに誘われるように乗車し、少しした後に扉は閉じ、電車は動き始めた。 車内の会話を何となく聞きながら、窓の外を見ていると、線路の外に見えた水溜まりを見たことにより、今より十分に小さな手が一生懸命に、慕っていた相手の手を引っ張って、水溜まりに映った空に誘おうとする場面がぼんやりと浮かんだ。 小学生の二人が水溜まりで遊んでいるのを見た時から浮かんでいる昔の思い出らしい思い出。 当時の自分が何をしたかったのか。今はすぐに思いつかないものの、楽しかっただけは覚えている。 それは結果的に紫音も楽しくて笑ってしまうぐらいだったからかもしれないが。 「あ! 朱音! 治ったのかよ!」 「⋯⋯お、大野」 急に上げられた声のせいで驚き、思考が途切れ、夢心地ような面持ちで見やった。 「何ボケっとしてんの? まだ調子悪いの? それか、エロいことでも考えているの?」 「どうしてお前は、そっちの考えになるんだよ⋯⋯」 扉が閉まるアナウンスを聞きながら、ため息を吐く。 「てか、さっき送ったんだけど、見た?」 「え、マジ?」 ポケットから携帯端末を取り出し、通知を見ると、『今日行けんの〜?』というメッセージが来ていた。 「ごめん。全然気づかなかった」 「マジかよ! 人が一応は心配してやってんのに! 一応は! 俺、悲しいわ〜」 おいおい〜と、顔を両手で覆って泣き真似をし始めた。 何やってんだ、恥ずかしい。一滴も涙なんて出ていないくせに。 心の中で毒を吐いていると、「そういえば」とやはり、濡れてもいない顔を唐突に上げた。 「紫音先輩にメッセージ送ったのかよ」 「⋯⋯っ、い、いや、送ってない」 「はーん。だからなのか」 「? なにがだ」 「ん? いや、なんでもー?」 ひらりと交わすかのように、適当に誤魔化されてしまった。しかも、にんまりと口角を上げて。 あ、この表情は。 「もったいぶるなよ、教えろよ」と電車から降りてからもしつこく聞いてみても、大野はニマニマしたままであった。

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