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ああ、やっぱり。
周りに人がいることを完全に忘れ、二人だけの世界になっているのを、四人は呆然と立ち尽くしていると、やがてその二人はひとけのない薄暗い神社の方へと、身を寄せ合って歩いて行った。
そんな所でナニをするかなんて、先ほどの二人の会話から想像出来てしまう。十分に。
「──あの子、あんなにも可愛い見た目をしているのに、男だったってことだろ?」
増えつつある海水浴をしに来た人達を眺めながら、友人の一人がぽつりと呟いた。
「あんな可愛い子が男なわけがない⋯⋯! なわけが⋯⋯」
男であるに加え、恋人がいたことが相当悔しく思っているのか、血管が浮き上がるぐらい両手を握り拳にし、地団駄踏んでいる友人の方をもう一人の友人が「だったら」とポンと肩に手を置いた。
「俺らもめっちゃ可愛くなって、色んな男に好かれれば良くね?」
数秒の沈黙。
「それはさすがに血迷いすぎだろ」
「だよなー。やっぱこの話は無かった──」
「⋯⋯いや。やっぱり、いけそうな気がするな⋯⋯!」
「⋯⋯は、え? ちょ、ま?」
「ナイスアイデア!」
「⋯⋯いや、冗談⋯⋯」
動揺し、肩から手が離れた友人の肩を、今度は慰められていた友人が、実に爽やかな笑顔を向けて、手を置いた。
そうしたのち、「最後の可愛い女の子を捜しに行くぞー!」と駆けて行くのを、「ちょ、待て!!」とその友人は慌てて後を追っていくのを目だけ追っていた。
「⋯⋯あいつら、あまりにも必死すぎるだろ。俺よりアホなのか」
「かもしれないな」
大野が朱音の方を振り返る。
「俺らはどうする? ひとまず場所確保してから、海に入る?」
「ん。そうする」
足元に置いていたパラソルを大野が、クーラーボックスを朱音が肩に掛け、場所探しをすることになった。
快晴で今日も暑すぎるぐらいで、家にこもっていたいぐらいだったのだが、気乗りしない夏祭りに行ったら、気分が晴れてきたのもあって、誘われるがままに行ったのもあるが。
母に海に行くことになった話をしたら、「海といえば! 紫音君の家族と一緒に行ったことを思い出すわね!」と何故か声を弾ませながら、その時のことを話し出した際、ところどころ思い出してきた。
波打ち際で砂の山を作ったり、打ち寄せて来る波に怯えながらも、紫音と共に足先だけ入って、いつぞやかの水溜まりに入った時のように、蹴って、水の掛け合いをしたり。
それと。
携帯端末に付けた物を海パンのポケットに入れた上から触る。
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