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「てか、何持ってんのそれ。石⋯⋯じゃなさそうだな」 「あ、これは⋯⋯」 はくり、と口を開いたが、あれ?と首を傾げた。 話しかけられる前に思い出したはずなのに。 出かかった言葉が消え、そのことに狼狽え、手に持っていた物を握りしめた。 「朱音?」 「あ、いや。さっきは思い出したんだけどさ、うっかり忘れちゃってさ」 「なんだし、それ。まるで俺が来たせいで忘れたみたいじゃん」 「ま、そういうことだな」 「は? うっざ」 悪態を吐きながらもそれは明るい調子で言っているような口調であったので、怒っているわけではなさそうだ。 「にしても、これ何だろうな。石なんかがこんな風にはならないだろうし」 「これは石じゃないんだわ。波に揉まれて、丸くなったビンの破片の一部なんだ」 「はぁ!? これが? 元々はビンなの!?」 朱音が持っている破片を指差して言うのを、朱音は頷いた。 「そこまで分かっていて、コレが何なのか忘れたのかよ」 「そうなんだよなー。肝心なところを覚えていないんだよな⋯⋯」 なんだったかと裏表を返しながら、必死に思い出そうとした。 『──あかと。うみをえいごで、シーっていうんだよ』 『しー?』 『そう。そしてこのビンのいちぶが、グラスといってね。うみからきたコレのことを──』 「──シーグラス」 無意識にぽつりと言った言葉に、はっとした。 そうだ。コレはそういう名前だ。 「は? なんだって?」 「コレ、シーグラスっていうんだよ! 海に捨てられたビンが長年かけてこういう形になるんだって、しおんにぃが⋯⋯」 「⋯⋯あの先輩が?」 そこではっとした。 大野の顔が、にやりと笑ったことに。 「ほんっとうに、二言目には紫音先輩のことだよな。だよな、だよなぁ。お前がこんなこと知っているわけないもんな〜」 「はぁ?! おめぇだって、知らなかっただろうが!」 「いいんだよ、俺は。どうせ、お前がよりバカなんだし。それにだって、こんなオシャレそうなの趣味じゃないし」 たしかに、このシーグラスはオシャレだ。 元の透明であっただろうビンとは違い、曇って丸みを帯びているが、人によっては見た目が可愛らしく、綺麗とも思える。 昔の自分も紫音もそう思っていたぐらいだ。 が、しかし。 「昔、しおんにぃがこうとも言ってたんだ」 「何を?」 「今はこう綺麗だと言われているけど、元は誰かが捨てたビンで、それを知ってか知らずか言うのは、あまり好きじゃないとも思っている的なことを言っていた⋯⋯かな」

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