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朱音の手のひらに置かれたシーグラスを見て、そう独り言とも思える口調で言う紫音の表情は、朱音に向けられた優しい笑みではなく、あまりいい表情ではない表情をしていた。 それを何とも言えない感情を見つめていると、小さな口を開いて。 『⋯⋯けど、』 「⋯⋯紫音先輩、その頃何歳よ?」 「え? あぁ、うちの母さんが言うには、五、六歳?」 「はー⋯⋯。そのぐらいの年齢でそんなことを言えるのかよ。俺なんてその頃はたしか、兄貴とヒーローごっこして遊んでいたぜ。どんだけ頭いいんだし」 「そうなんだよ⋯⋯しおんにぃ、頭いいんだよ⋯⋯!」 「あ、ヤベ」 「俺が綺麗だって言ったから合わせて言ってくれたんだろうけど、てか合わせて言ってくれるの本当に優しくね?その上で自分はこう思っているって意見を言うとかあの時はどういう意味かは分からなかったけど今なら捨てた悪い人がいてあまり良く思ってもないって意味じゃんけどこれを拾ったら──」 「わーった! 分かったから!それよりもそのしおんにぃからメッセージ来てたぞ!」 ずいっと朱音の携帯端末を向けて言うのを、「しおんにぃから⋯⋯?」と信じられないと言った口調と半信半疑で画面に表示されたメッセージを見やる。 ちなみに、ロック解除をしなくても見れる設定にしたのは、一早く紫音からの通知が見たかったからだ。 『夏休み終わったら、屋上に』 たったその一言。 屋上に呼ぶ人は一人しかいないが、信じられずアイコンと名前を見る。 『紫音』とあのアイコンだった。 間違いなかった。 「しおんにぃからやっと来た⋯⋯」 大野から携帯端末を受け取り、じっと見つめる。 朱音の返事でもなく、謝罪でも無かったが、ずっと待ち続けていた人からのメッセージが来たことはとても嬉しく思える。 たったそれが一言だけでも。 「何があったのかは分からないけど、良かったな」 「ああ! そうだ! これをいっぱい拾ってしおんにぃに土産としてあげよう! 大野も手伝ってくれ!」 「は〜? マジかよ。かき氷奢ってくれたらやるわ」 一足先に嬉々として拾おうとする手が止まった。 「じゃ、いいわ。自分で拾うわ」 大野の返事を待たずに拾い始めた。 この海辺はさほど流れていないらしい。見る限りではすぐに全てを拾えるぐらいの量であった。 昔もこうやって拾い集めたな。紫音がああ言って、胸を痛めたような顔をするもんだからあんまり意味が分かっていなくても、こうすれば紫音に喜んでもらえると思って、やり始めたんだっけな⋯⋯。

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