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「ほら」 ガサッ。 短く言われたのと同時に、スーパーの袋をこっちに渡す大野のことを見上げた。 どこかに行ったのかと思っていたものだから、こうして来るとは思わなかった。 きょとんとして何も言わずにいると、「なに、ぼけっとしてんの」とその場にしゃがむと、朱音が拾ったシーグラスを袋に入れていく。 「こんなに拾っているのに、両手で抱えて持って帰る気かよ」 「⋯⋯大野。お前、気ぃ遣えるのな」 「俺はいつだって、気ぃ遣える男よ」 「それなのに、彼女出来ないんだな」 「今はいいんだよ。シーグラスを無駄に拾っているやつと、その場の勢いで女の子と仲良くなって、鼻の下を伸ばしているやつらの世話をしないといけないんだからさ」 「それは悪ぅございました」 不貞腐れ気味で言ってみせると、吹き出した大野と笑い合った。 楽しい。 やっと心の底から笑えるぐらいの心のの余裕が出てきて、腹部痛めるぐらい笑った分、大野に感謝していた。 しきりに笑った後、すぐに全てのシーグラスを拾い終えて、大野と共に荷物置きに戻ると、友人二人が砂まみれのまま並んで座っていた。 レジャーシートが汚れるだろ、洗って来いと一つ文句を言おうとしたが、友人の一人の頬を見て、言葉を失った。 左頬全体に赤く手のひらの形したのがくっきりとあったのだ。 「おい、お前どうしたんだよ」 口を薄く開けたまま言えずにいる朱音の代わりに引き気味に大野が訊いた。 すると、傍らにいた友人が代わりに答えた。 「砂に埋もれて、そろそろ出してもらおうとした時、手が自由になってふざけて両手を上げたら、女の子の水着に引っかかったみたいなんだ。その拍子で取れちゃったみたいで、それで⋯⋯」 「いや! 俺はわざとやったわけじゃないんだ! 断じて! ちょっと触ろうと思ったけど⋯⋯」 「確信犯じゃん」 「ヤバ。だから、夏祭りの時も振られるんだよ」 「いや、あれは、色々と裏切られた⋯⋯」 ようやく口を開いた朱音が、傷を抉るようにあの例の話を蒸し返して、茶化してみるが、蚊の鳴くような声が返ってきた。 平手打ち一発でここまで意気消沈するとは。今回のことで女の子漁りするなど、どうしようもないことを止めればいいのだが。 「朝田。お前、めちゃくちゃ他人事のように言っているけどな。お前だっておっぱい触りてぇとか思うだろ?」 「無い。少なくとも、どさぐさに紛れて触ろうとは思わない」 「は〜? ぜってぇ、嘘だろ! 一度は生ぱい触りてぇとか思うだろ!」 頬を叩かれた友人が騒いでいると、傍らにいた友人が肩にぽんと手を置いたことにより、一瞬にして動きが止まった。 「止めとけ止めとけ。あいつ、好きなやつがいるみたいだからさ」 「はぁ!? マジで!」 「マジマジ! 女子達がウワサしていたもんよ。なんでも、"しおん"っていう名前の子と放課後会っているって聞いたし」 「あぁ〜! だから、一学期の途中から俺らと付き合いが悪くなったのか!」 「待て待て待て」

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