65 / 113

5-9

なるなると二人で勝手に納得しているのを、全力で阻止した。 「誰だよ、名前から勝手に女と会っているって言っているやつは!」 「待て、朱音⋯⋯」 「女なわけねーだろ。しおんにぃは⋯⋯」 「「しおんにぃ??」」 またやってしまったと固まった。 隣では、呆れたと言わんばかりなため息が聞こえた。 「にぃってことは、朝田の兄貴ってことか?」 「お前、兄貴っていたっけ?」 「あ、いや⋯⋯それは⋯⋯」 「あ、思い出した! 前に授業中に叫んでいた名前じゃん! え、何? 放課後にしか会えない関係なの?」 「いや、別にそういうわけじゃ⋯⋯っ」 「てか、兄貴なんだから、放課後わざわざ屋上に行かなくても、一緒に住んでいるのだから、そんな回りくどいことしなくても。⋯⋯何か事情でもあるのか?」 最後に問うような声音は、どこか言ってはいけなかったかと言うような声にも聞こえ、一応気を遣えるんだなと思いつつも、どう答えたらいいのかと悩みに悩んだ。 実の兄ではなく、家が隣同士であった幼なじみ関係の人で、自分が勝手に会いに行っているだけ。 そう言えばいいのだが、そこまで言う必要はあるのだろうとも思ってしまった。 クラスメートの女子達がどこで知ったのかは知らないが、紫音のことを知っていることさえも、あまりよく思ってないのに、これ以上誰かに知られたくない。 ⋯⋯ん? 何なんだ。その気持ちは。それじゃあまるで──。 「こんな話はいいだろ。それよりも、お前らは海にひと泳ぎでもして、その砂だらけの体を洗ってこい!」 「うわっ! 話を誤魔化しやがった!」 「うっせーよ!」 腕を掴み、引っ張り、強引に立たせると、ぶん投げるかのように海の方へ追いやった。 「この野郎⋯⋯っ」と振り向きざま文句を言いかけていたが、途端、何か閃いたような顔をして、海の方へ走って行った。 何だろうかと思って、何となく大野の方へ振り向くと、大野も同じような表情をして、こちらと目が合った。 そうこうしているうちに、海に入った友人がこちらに走って、戻ってきたが──。 「くらえっ!」 こちらに髪を向けたかと思うと、犬よろしく思いきり振る。その拍子で水しぶきがこちらに飛び散っていく。 「うわっ! てめぇ! 何しやがるっ!」 「洗ってやったぞって見せつけたかっただけですぅ〜!」 「このクソがっ」 頭に来た朱音はシーグラスを入れた袋と携帯端末を大野に渡すと、海へと行き、頭を突っ込むとそのびしょ濡れとなった髪をさっきのようにやり返す。 やられた友人がまたやろうとしているのを、後を追いかけようとすると大野らに止められかけたが、制止を振り切って、共に海に入った途端、水の掛け合いをする形になり、そのうち、楽しそうに笑い合ったことにより、いい夏休みの思い出の一つとしてなった。 夏休みが終わった後、土産のシーグラスを紫音に渡したら、どんな反応をするのか想像を膨らませながら。

ともだちにシェアしよう!