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朱音は首を傾げたものの、それ以上突っ込むのは止めておこうと思い、違う話題をしようとしたタイミングで、紫音が口を開いた。 「で、その大量にあるシーグラスどうする気なんだ?」 「そうなんだよなぁ。しおんにぃに土産をと思って、ありったけ拾ってみたけど⋯⋯しおんにぃ全部いる?」 「そんなにもいらん」 「だよな⋯⋯。だとしたら、文化祭の出し物の時に使えないかな。喫茶店で使えるか⋯⋯?」 「喫茶店?」 すると、突然朱音は持っていた袋にバンッと八つ当たりした。 少しばかり紫音が目を丸くしたような気がしたが、構っていられない。 「そうなんだよっ、女子達が女は男の格好、男は女の格好の喫茶店がしたいって話になってさ。俺はめちゃくちゃ嫌だったんだけど、他の男らが悪ふざけで、賛成しやがってさ! もう、マジ今からユーウツすぎるんだよ⋯⋯」 身振り手振りを混じえて、長いため息を吐いていた。 文化祭があるのは十一月であるが、その前の準備に時間を要するため、六月頃に出し物を決めておかないといけないのだが⋯⋯。 そういう流れになったことを思い出して、顔を覆った。 ほんとっ、憂鬱すぎる。 「⋯⋯俺はさ、ただ駄菓子を売るやつとか、お化け屋敷でも良かったんだよ。全員が全員参加しなくてもいいって感じだったし、準備でもテキトーにやっておけばいいかと思っていたのに⋯⋯っ!」 「喫茶店も全員参加でもないし、別にいいんじゃないのか」 「違うんだよ、しおんにぃ」 ふっと、顔から手を離した朱音は、「俺も、最初はそう思っていたんだよ」と自嘲気味に笑っていた。 「なんでか知らないが、クラスの女子達の、特にしおんにぃファンクラブのやつらに目ぇ付けられていたみたいで、そいつらが腹いせに、強制的に俺をメイドにさせることを決めていやがったんだ⋯⋯!」 改めて口に出しても意味が分からないし、理不尽すぎる。 自分達が勝手にファンクラブなんて作って、紫音を神格化し、たやすく近づけないとアホくさいことまで言っていて、そんなに女子達から見て、朱音がいとも簡単に紫音に近づいて、さらには、仲良さげにしているのが気に食わないらしく、文化祭実行委員でもあるファンクラブ会長の取り仕切っている女子が、そういう計画を企てたのだ。 女子は男の格好、男子は女の格好というのは建前で、全ては朱音のプライドを思いきりへし折る、くどい計画だったのでは、と今さらながらに気づいた。 ここまで来たのなら、気づかずに嫌々な気持ちだけでいれば良かったかもしれない。 兎にも角にも、そんな回りくどいいじめにも似たことをするよりも、紫音と話せる努力をすればいいのではと思ってしまうのだが。

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