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「⋯⋯それは、災難だな⋯⋯」 「だろう!? やっぱり、しおんにぃだけだよ、分かってくれるのは! 大野や、いや、大野よりも他の奴らは、めちゃくちゃ面白がっているんだよな! あいつらは、当日、担当は何もないみたいだしさー!」 本当に今から考えるだけでも嫌になる。 当日休んでしまえばいいじゃんと軽い考えをしたのは一瞬で、その後の女子達の反感を買い、何をしてくるか分からないからだ。 何かに怯えながら、残りの二年間は過ごしたくないし、半年もしないうちに卒業してしまう紫音と過ごす日々を大切にしたい。 そうだった。紫音と過ごす日々が少しずつ無くなってしまうんだ。 嫌だな。ようやく会えたのに、また目の前からいなくなってしまうのは。 「⋯⋯何だ」 「あ、いやっ! なんでもねぇ!」 考え事しているうちに、傍から見れば紫音のことをじっと見ている形になっていたようだ。紫音もじっと見返していたことにより、頭と両手を自身の前に全力で振る。 「俺の愚痴を永遠と言っていても、仕方ねぇ。⋯⋯しおんにぃのクラスは何をやるんだ?」 「知らない」 ガクッとズッコケそうになった。 「知らないことはねーだろ!? 一年が一学期中に決めたんだから、三年も同じぐらいに決めているんじゃーねの?!」 「⋯⋯興味ねーし」 「しおんにぃが興味があろうが、なかろうが、俺はとても興味があったんだけどなぁ。しおんにぃのクラスの出し物を見るの、初めてだし! 最初で最後のを見てみたいんだよ!」 「⋯⋯」 ずいっと勢いのまま顔を近づけると、紫音はやや顔を下に向けた。 何気なく紫音の唇を見やると、下唇が隠れるぐらいきつく噛んでいた。 え、なんで。 ぽかんとした顔で見つめていると、その唇からゆっくりと離れる、その動作が妙に艶めかしく、落ち着かなくなり、朱音から離れたタイミングで紫音は聞こえないぐらいの息を吐く動作をした。 「⋯⋯本当に面白くねーぞ」 「そうであっても、見たい! それはそれで思い出になるから、見たい!」 「⋯⋯ゾンビ」 「⋯⋯え?」 耳心地よい声から発せられなさそうな単語に、自分の耳が聞こえづらくなったのだろうかと思い、耳を手のひらで軽く叩いた後、「今、なんて言った?」と訊き返した。 「⋯⋯客が銃を持って、ゾンビに扮したクラスメートを撃つもの⋯⋯らしい」 「⋯⋯は、はぁ⋯⋯?」 ゲームやゲーセンにあるようなものを模している出し物ということなのだろうか。 三年であるからもっと派手なことをするのかと思っていたのだが。

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