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「ちなみに、しおんにぃはゾンビやるの⋯⋯?」 「やるわけがない」 「で、デスヨネー⋯」 ばっさりと言われて、あはは⋯⋯と乾いた笑いしか出来ずにいた朱音だったが、ぴたりと止まった。 当日何も担当することがないってことか? だとしたら⋯⋯! 「ってことは、文化祭の時は暇ってこと? だったら、俺と一緒に回らない? てか、しおんにぃと回りたい! しおんにぃと回れるの、きっと最後だと思うから⋯⋯」 必死になって言うのを、聞いているのかいないのか、紫音は再びシーグラスを手に取って、今度は地面に置いていく。 その動作を何度かしたうち、「⋯⋯俺よりも他にいるんじゃないのか」と言ってきた。 「えー⋯⋯いるとしたら、大野達ぐらいなもんだしな⋯⋯そんなやつよりも、しおんにぃと回りたいんだってば!」 「⋯⋯閉会式の締めを任されている」 「? しおんにぃ、文化祭実行委員なの?」 「違う。ヴァイオリンを弾いてくれないかと言われている」 「へー⋯⋯! やっぱり、しおんにぃはすごいんだな! ソレ見られるの、俺ちょー楽しみなんですけど!」 そういえば、すれ違った女子達の会話でそんなことを言っていたような気がするが、このことだったのか。 たしかに紫音の弾くヴァイオリンは言葉では言い表せない誰もが惹きつける魅力がある。だから、全校生徒に聞いてもらいたい気持ちでもあるし、このヴァイオリンの音色を聞くのは自分だけでいいなんて思ってしまう。 何だろうか、この独占欲は。 「⋯⋯っていうか! それなら、文化祭の最中は俺と回れるじゃん!」 「練習しないといけないからな」 「でも、少しぐらいいいじゃんか! 息抜き必要!」 グッと拳を握りしめた手を見せつけて、目を見つめていると、どこか虚を突かれた表情をしているように見えた。 数秒の間の後、折れたらしい、「⋯⋯少しだけな」とため息混じりに言う紫音の言葉を聞いて、「やったー!」と諸手を上げた。 「しおんにぃ、ありがとう!」 「⋯⋯回る時だけはせめて、紫音と呼んでくれ」 「いいじゃんか、それぐらい。俺達、幼馴染みなんだぜ」 「⋯⋯女子達に刺されたくないのなら、止めておけ」 「⋯⋯あ、ワカリマシタ⋯⋯」 自分がさっき言った、出し物がそうなった経緯の時、紫音のファンクラブが勝手に作られていて、女子達の反感をいつの間にか買っていたことを思い出し、ぶるりと体を震わせた。 そうなると、やはり紫音と回るのは危険を伴うのではと思ってしまう。だけど、自分がここまで押しに押したのだから、引くに引けない。 んー⋯⋯女子、というのは本当に面倒くさい。

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