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そう言って、大野が目の前を指差す先を辿っていくと、地味な服を着、眼鏡を掛けた内気そうな男性が、頬を赤らめ、朱音のことを見つめていた。
そして、その眼鏡の奥から熱っぽい視線を送っていることに気づいた。
背筋がゾッとするのを感じ、「いやいやいや」と大野に小声で耳打ちをする。
「⋯⋯いやっ、これはヤバいやつなんじゃ⋯⋯!」
「いいから、いいから。相手をしてこいって!」
「って!」
背中を強く叩かれた反動により、たたらを踏むことになった朱音であったが、さっきよりも近くにあの男性が、しかも、吐く荒い息が顔にかかり、青ざめていくのを感じた。
これはダメなやつ!
そう言う意味で大野の方を振り返り、思いきり首を横に振ったが、顎をしゃくった。
やってこい、と。
ええー⋯⋯。
限界なんだが、と思っていると、大野の前に二人ほど大学生らしい男性らが、「写真一緒に撮ってもいいですか?」と言われていて、朱音を見ている余裕は無かった。
「⋯⋯あの、メイドさん。案内して欲しいんですけど⋯⋯」
「あ、はい! お、お帰りなさいませ、ご主人様⋯⋯席へ案内します⋯⋯」
なるべく視線を合わせずに、その人の歩幅を合わせず、そそくさと席へと案内し、「こちらがメニューになります」とテーブルに置かれていたメニューを手で指し示した。
「では、これで」と足早に立ち去ろうとした、その時だった。
「⋯⋯っ!」
臀部辺りに触られる感覚があり、咄嗟にそこを見やると、さっきの客がメニューを立てて、死角を作り、触っていたのだ。
気持ち悪い。
「あの、止めて頂いてもらえませんか?」
「キミ、男なんだろ? そうとは思えない可愛いメイドさんだ。とてもいい⋯⋯」
「⋯⋯触らないでくれませんか」
「⋯⋯いいね、いいね⋯⋯」
高校生がやる喫茶店を何を勘違いしているのか、調子に乗る客もいるかもしれないと、担任が言っていたような気がするのを思い出した。その中で、「ご主人様なんだから命令通りにやれ」とクレームを言う人もいるから気をつけて、何かあったら、言うようにとも言っていた。
が、これは担任に言う前に。
頭がブチッと何か切れたような幻聴が聞こえた、その同時に。
「触ってんじゃねーよっ!」
怒声と共に、右ストレートをその客の顔面に思いきり当てた。
思っていた以上に命中したらしく、殴られた客は、その勢いのまま椅子から転げ落ちた。
抑えきれない怒りで肩で息をし、手の痛みを覚えていたが、はっと我に返って、辺りを見やる。
近くにいた他の客とクラスメートが口を半開きにしながら一斉に朱音のことを見ていた。
あ、ヤバい。これは。
弁明しようと何か言おうとしたが、咄嗟の言葉も思いつかず、しどろもどろしていると、偶然通りかかった先生に「何があったんだ!」と驚いた様子で教室に入ってきた。
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