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「──朱音ッ!」 乱暴に開かれたと同時に、焦りが募った声で呼ばれた。 この声は。 途端、涙が引っ込んだ朱音は、潤んだ瞳を扉の方へ向ける。 そこにいたのは、再び見れた冬服姿の一緒に回りたかった人。 「しおんにぃ⋯⋯」 「大丈夫なの!? 怪我をしたんだって!? これは相当に痛そうだ⋯⋯。ダメだよ、早くお医者さんに行かないと朱音の綺麗な手が歪んでしまうのだから先生の言うことを聞いて早く行こうなんなら僕も一緒に⋯⋯」 「しおんにぃ⋯⋯?」 口調が。それに「僕」? 鬼気迫ると言った表情で駆け寄り、朱音の目線を合わせるようにしゃがむと、これまで聞いたことがない優しくも焦りが滲み出ていた声で、早口で言っていたことにより、呆気に取られそうになっていた。 朱音と自身の発言にやっと気づいたらしく、急に口を噤む。 いきなり静かになっても困るんだけど。 だが、先ほどの発言と言い、梅雨の時期に熱を出したように、朱音のことを、そして、本人以上に心から心配しているのが真正面で分かり、さらには昔のような口調で言ってくれて、安堵し、心が暖かくなるのを感じる。 ぽたり。 優しい手つきで怪我した右手と繋いでいた紫音の手に、雫が落ちた。 「朱音⋯⋯?」 驚きと不安を滲ませた紫音の声が聞こえた。 感情のこもった声で呼んで欲しかった名前で呼んでくれている。 嬉しくてしょうがない。 「しおんにぃ、ありが、とう⋯⋯。俺、ちゃんと医者に行く⋯⋯!」 「⋯⋯! いい子だ⋯⋯!」 「⋯⋯っ」 ぱぁっと輝かせた笑顔が、ぼんやりとしてしまった視界で見てしまった。 しまった。再開してしてから一度も見たことがない顔が、と思っていると、背中に手を回された。 心臓が跳ね返った。 まさか、そんなことまでしてくるとは。 痛いぐらいにぎゅうぎゅうに抱きしめてくる紫音に戸惑いを覚えていると、ぴたっと急に動きが止まった。 いきなり、どうしたのだろうと、様子を伺っていると、バッと離れた紫音と目が合った。その時、涙できちんと見れなかったので拭ってしまったが、しなければ良かったと後悔することとなった。 表情が、無に近い表情に戻っていたのだ。 ずきり。 やっと昔のような紫音に戻ったと思ったのに。どうして、そんな表情を向けるの。 そうした朱音の複雑な気持ちを全く知らずにいる紫音は、その形の良い唇を開いた。 「⋯⋯同行する」

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