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その言葉の通り、先生が行くからいいと言っているのにも関わらず、頑なに行こうとする紫音と共に医者に行き、再び学校に戻ることとなった。
ちなみに医者に行こうと保健室に出ようとした時にやってきた大野は、「しおんにぃと行けて良かったな」と軽口を叩かれたのを、「うっせー」と笑った顔で返し、「あとはやっておくから」と去っていった。
行かないと駄々をこねる朱音を説得するために、紫音を呼んでくれたのだろう。そして、一緒に来なかったことから、何かに気を回してくれたのだと思われる。
そこまでしなくていいのに。
紫音と並んで歩きながら、そのことを思い出し、一人こっそりと笑っていると、「調子はどうなんだ」と前を向いたままの紫音が、今までと変わらない口調で訊いてくる。
そのことに内心傷つきながらも、包帯で巻かれた右手に左手を添えた。
「⋯⋯あ、まあ。そこまで痛いってわけじゃないかな⋯⋯」
「そうか」
そう言ったきり、続きの言葉を言うこともなく、二人は黙っていた。
というのも、紫音がそのような質問をするのは、初めてではない。
診察し終えて、待合室に行くと、すぐに椅子から立ち上がった時から始まり、車の中でもことある事に、そして、今でも同じ質問を繰り返し訊いてくる。
さすがにうんざりするが、同時に心配してくれていて嬉しくなっている自分がいた。
口調を何故か変えている、昔のような優しさを持った幼馴染み。
喜びに満ち溢れて思わずスキップしかけたが、肩に掛けられていたものに気づく。
それは、紫音のブレザーであった。
保健室で、椅子から立ち上がろうとしようとした時、「その格好だと目立つから」と掛けてくれたのだ。
片手がこうなってしまったし、何より早く病院に行って欲しいと思っているだろうから、着替えている暇がなく、男がこんな格好をしているため、目立つと思っている上での気遣いなのだろう。
ありがたく思ったが、今は学校。そろそろ返しても支障は無いだろう。
そう思っていたのだが。
「しおんに⋯⋯紫音。ブレザーありがと。返すわ」
「いい」
「え、何で」
「そんな格好でうろついていると、また変なヤツに絡まれるだろ」
「そ、そうかもしれないけどさ、紫音、寒くない?」
「俺は、大丈夫」
「あぁ⋯⋯そう。じゃあ、まだ借りておくわ」
いつまでも言い合っていても仕方ないと思い、紫音のご好意に甘えた朱音は、左手でそっとブレザーの襟部分を掴んだ。
紫音の背は朱音より少しだけ大きい。だからそこまでブレザーの大きさは変わらないと思うが、何だか紫音に後ろから抱きしめられているような感覚を覚える。
いや、いやいや、何を考えているんだ、俺は!
頭を振りまくっていた朱音に、すっと手が差し出された。
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