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途端、不思議そうな表情で見やると、やはり前を向いたままで、表情の見えない紫音が立ち止まっていた。
「しおんにぃ⋯⋯? どうかしたの」
「こんなにも人がいるんだ。何をしでかしてくるか分からない。だから、手を繋いでおこうと思っただけだ」
「⋯⋯だからって」
これは過保護なのではと思い、笑えてくる。
その笑い声で気づいたらしく、紫音がこちらに振り返った。
「なに、笑っているんだ」
「あ、いや。しおんにぃだなと思って」
「⋯⋯紫音、だ」
ふいっと再び前を向いたが、振り向く直後、頬を染めたような顔が見れて、目をぱちくりさせたものの、それさえも面白く、さらに笑った。
「何がおかしいんだ」
「いやぁ、何でも?」
「⋯⋯そろそろ、置いていくぞ」
「待ってよ」
行こうとする紫音の手をぎゅっと握った。
あの頃とは当たり前に違う、大きな手。やはり、ひんやりとしている。
「やっぱり、寒いんじゃねーの?」
「別に、大丈夫だ」
「⋯⋯そう。そう言うならいいけどさ」
そうして、二人は歩き始めた。
しかし、何を恥ずかしがっているのか、どちらとも話し出すこともなく、視線を周りに向けて、気まずい雰囲気を誤魔化そうとした。
ヴァイオリンを弾いているよりも朱音の方が心配だという意味の、そのままの流れで一緒に回ることになったというのに、これじゃあ、面白くも何とも無いじゃないか。
とりあえず、どこに行くかということを訊こうとした時だった。
「──アカレンジャー、キーックっ!」
いつの間にか中庭に来ていたらしい、文化祭のためだけに設けられたステージで、パーティコーナーで売られているスーツを身にまとった赤い人が、黒いマントを身につけ、段ボールで作ったのだろう、頭に角が生えた、いかにも悪役らしい人物に蹴りを入れている場面と遭遇した。
「へぇー、特撮モノをやっていたんだな」
思わず立ち止まっていた朱音につられて紫音もそうなると、一緒になって見ていた。
「紫音。俺達が昔観ていた戦隊モノ、憶えている?」
「⋯⋯少しだけ」
「あれってたしか、ヒーロー側が全員楽器を模した武器を持っていて、それで敵と戦うんだったよな。そうだ! それにもヴァイオリンを弾いていたやついたよな〜」
記憶はうっすらとなってしまったが、当時は、今目の前で学生達が考え、披露している戦隊モノを、夢中になって観ている子どものように、食い入るように観ていた。
「俺、その影響もあって、ヴァイオリンを習おうとしていた。紫音が習っていたのも、もちろんあるのだけど」
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