81 / 113
6-10
まるでオタク特有の早口で語り出した、かつて観ていた戦隊モノのあるシーンのことを言っているらしいが、当時幼かった朱音は全く憶えてない。
「⋯⋯え、てか、何で、紫音はそんなにも憶えているわけ⋯⋯? さっき、少ししか憶えてないって言ってなかったか?」
「⋯⋯それは、」
迷うように、少し口を開けたまま考え込んでいた。
その様子に首を傾げながらも返事を待っていると、紫音は決心したかのように言った。
「朱音がそれがきっかけで、『しおんにぃ』と呼んでくれたから」
思考停止。
保健室の時のような声音と、そして、『朱音』呼びに不意をつかれた。
それがきっかけで紫音のことをそう呼ぶようになったって? そう言われても……。
『レッド、おにいちゃんいるんだぁ〜。いいなぁ、ぼくもおにいちゃんがほしー!』
『だったら、ぼくがおにいちゃんになってあげるよ』
『しおんくんが? おにいちゃんって、なりたいとおもったら、なれるの?』
『うん、なれるよ。あかとがなってほしいなら、ぼくはなってあげる。それに、ヴァイオレットはヴァイオリンをひけるみたいだから』
『⋯⋯! だったら、ぼくもヴァイオリンひけるようになったら、ヴァイオレットになれる?おにいちゃんになれる?』
『ふふ。なれるよ』
『じゃあ、がんばる! それまではしおんくんは、ぼくのおにいちゃんで、えーと、しおんにぃってよぶー!』
「⋯⋯あ⋯⋯」
思い出した。
あの回の後、紫音が言っていたようにヴァイオレットは仲間側となり、レッドとヴァイオレットが仲良さげであったことから、そうなりたいと自分で言っていたようだった。
「あー⋯⋯なんて恥ずかしいんだ。そういうことがあったことを忘れて、紫音のこと本当の兄だと思い続けていたなんて⋯⋯そりゃあ、再開したときに紫音が、兄弟じゃないって言うわけだわー⋯⋯」
「⋯⋯それは⋯⋯っ」
「──良い子のみんなー! 見てくれてありがとー!」
紫音が何かを言おうとしたのと同時にショーが終わりを告げる声によって、かき消されてしまった。
観客していた親子連れやら生徒やらが散り散りに去っていく。
「紫音、何か言っていた?」
「⋯⋯いや⋯⋯⋯」
「?」
ふいと、顔を逸らす紫音に首を傾げていると。
ぐーきゅるる⋯⋯。
「あ。そういえば、まだ昼飯食ってないんだった」
「じゃあ、どこかで食べるか?」
「あ、うん。そうする」
次に顔を向けた時には、無表情で見えたが、よく見ると目元がどこか慈しみのある、けれど、笑いを堪えているようにも見え、「しおんにぃ、笑っているでしょ」と言ってみたが、「笑ってない」と無表情で貫き通そうとしながらも、スラックスのポケットから地図を取り出す。
ここで言い合っていても仕方ないかと、短く息を吐くと、どこで食べようかと話し合うのであった。
ともだちにシェアしよう!