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まるでオタク特有の早口で語り出した、かつて観ていた戦隊モノのあるシーンのことを言っているらしいが、当時幼かった朱音は全く憶えてない。 「⋯⋯え、てか、何で、紫音はそんなにも憶えているわけ⋯⋯? さっき、少ししか憶えてないって言ってなかったか?」 「⋯⋯それは、」 迷うように、少し口を開けたまま考え込んでいた。 その様子に首を傾げながらも返事を待っていると、紫音は決心したかのように言った。 「朱音がそれがきっかけで、『しおんにぃ』と呼んでくれたから」 思考停止。 保健室の時のような声音と、そして、『朱音』呼びに不意をつかれた。 それがきっかけで紫音のことをそう呼ぶようになったって? そう言われても……。 『レッド、おにいちゃんいるんだぁ〜。いいなぁ、ぼくもおにいちゃんがほしー!』 『だったら、ぼくがおにいちゃんになってあげるよ』 『しおんくんが? おにいちゃんって、なりたいとおもったら、なれるの?』 『うん、なれるよ。あかとがなってほしいなら、ぼくはなってあげる。それに、ヴァイオレットはヴァイオリンをひけるみたいだから』 『⋯⋯! だったら、ぼくもヴァイオリンひけるようになったら、ヴァイオレットになれる?おにいちゃんになれる?』 『ふふ。なれるよ』 『じゃあ、がんばる! それまではしおんくんは、ぼくのおにいちゃんで、えーと、しおんにぃってよぶー!』 「⋯⋯あ⋯⋯」 思い出した。 あの回の後、紫音が言っていたようにヴァイオレットは仲間側となり、レッドとヴァイオレットが仲良さげであったことから、そうなりたいと自分で言っていたようだった。 「あー⋯⋯なんて恥ずかしいんだ。そういうことがあったことを忘れて、紫音のこと本当の兄だと思い続けていたなんて⋯⋯そりゃあ、再開したときに紫音が、兄弟じゃないって言うわけだわー⋯⋯」 「⋯⋯それは⋯⋯っ」 「──良い子のみんなー! 見てくれてありがとー!」 紫音が何かを言おうとしたのと同時にショーが終わりを告げる声によって、かき消されてしまった。 観客していた親子連れやら生徒やらが散り散りに去っていく。 「紫音、何か言っていた?」 「⋯⋯いや⋯⋯⋯」 「?」 ふいと、顔を逸らす紫音に首を傾げていると。 ぐーきゅるる⋯⋯。 「あ。そういえば、まだ昼飯食ってないんだった」 「じゃあ、どこかで食べるか?」 「あ、うん。そうする」 次に顔を向けた時には、無表情で見えたが、よく見ると目元がどこか慈しみのある、けれど、笑いを堪えているようにも見え、「しおんにぃ、笑っているでしょ」と言ってみたが、「笑ってない」と無表情で貫き通そうとしながらも、スラックスのポケットから地図を取り出す。 ここで言い合っていても仕方ないかと、短く息を吐くと、どこで食べようかと話し合うのであった。

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