82 / 113

6-11

「あー、食った、食ったぁ」 学校の廊下を歩きながら、ポンポンと腹部辺りを叩いた。 「紫音はそこまで食ってねーよな? たこ焼き一人分食ったぐらいで、あとは俺ばかり食っていて。あれぐらいでいいの?」 「あれぐらいでいい」 「そうなん? 紫音って少食だっけ?」 ふぅん? と言いながら先ほどまでの出来事を思い返す。 地図を見た時、真っ先に目が入ったのがたこ焼きであったため、それを最初に食べたのだが、今一人分と言ったが、厳密に言うと、半分ぐらい食べてあとは朱音にあげていたのだ。 あまりにも食べなさすぎて、「本当に食ってもいいのか」と何度も訊いたが、紫音は「別にいい。食べろ」と言うものだから、ありがたくもらったのだが。 朱音はそれだけでは物足りず、その後も色々と食べていたのだが、その間も紫音は一口も口つけずにいた。 しかし、食べている最中、じっと見てくるのだ。 その視線が気になり、食べたいのかと訊いても、顔を逸らす。 思い返してみても、紫音の行動がよく分からない。 今に始まったことじゃないが。 地図を見ている紫音に、「次、どこ行く?」とひょいと覗いた時。 「ねぇ、聞いた? 一年の喫茶店をやっているクラスで、暴力沙汰があったんだって」 「聞いた聞いた! メイドが突然、お客さんのことを殴ったんでしょ? そういうコンセプトだとしても、やりすぎだよねー」 「⋯⋯⋯!」 前から来た一般客の女性二人組が、怖いねーと言いながら去っていくのを、地図を見るために立ち止まっていた朱音の耳に入り、地図を差していた指が震える。 一年の喫茶店をやっているのは、朱音のクラスしかなく、しかも内容は朱音がしてしまったこと。 その悪い噂のせいで、委員長が狙っている優勝はしないだろう。どんなにクラスの人達が頑張ったとしても、どこから聞いたのか分からない噂のせいで、名誉挽回は出来ない。 文化祭が終わった後は、とてもいたたまれない気持ちになり、クラスにいたくなくなる。 紫音のことが好きな女子達だけではなく、クラスの大半が朱音のことを責めるかもしれない。 本当にどうしてあんなことを。 「朱音。休憩したい」 「あか⋯⋯、え? まあ、いいけど⋯⋯」 不意打ちに呼ばれた名前に面食らいながら曖昧に返事する朱音の手を繋ぎ、別の校舎に繋がっている渡り廊下を歩いて行く。 その校舎は、特別教室が並んでいて、文化祭の最中は、空き教室を荷物置き場にしていたり、文化系の部活が使っている程度で、ほぼ人はいなかった。 だが、この校舎に休憩する所はあっただろうか。

ともだちにシェアしよう!