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「なぁ、紫音。こっちなんかに休憩する所ある?」 「⋯⋯⋯」 「なぁって!」 何も話さず、朱音の歩幅に合わせて歩く紫音が何だか怖く感じた朱音は、廊下に響くぐらい叫んだ時、足が止まった。 やっと人の話を聞く気になったのかと思った矢先、目の前の教室の扉を開けた。 そこは、乱雑に机と椅子が置かれている、恐らく物置と化した教室だった。 しかし、こんな所を休憩場所にするつもりなのか。 「紫音、ここで休憩するつもり?」 「そうだ。入るぞ」 「え、ちょ⋯⋯!」 手を引かれるがままに紫音の後に入っていった。 直後、中へと追いやるように手を離された後、紫音は後ろ手に扉を閉めた。 その間もカーテンで閉められていた薄暗い中でも見据える黒い瞳が、朱音を捕らえて離さない。 いつものような、睨みつけているわけでも、悲しんでいるような瞳でもない。 本当に何も感じ取れない、無であった。 それがより、恐怖を増し、朱音は人知れず震え上がらせた。 「⋯⋯し、紫音⋯⋯? とりあえず、電気付けてくれないか? 薄暗いから、気分も下がるっていうか⋯⋯」 「さほど、暗くもないだろう」 「そりゃあ、そうなんだけど⋯⋯」 一歩一歩近づいていく度に、朱音は一歩一歩後退する。 ガッと靴に当たり、後ろを見やると、机の足が見えた。 これ以上後ろに行けない。 再び前を向くと、眼前に紫音が迫っていた。 すると、手を上げるのが見え、とっさに目を閉じた。 「しおんにぃ⋯⋯っ⋯⋯」 「……怖がらせて、ごめん」 そう紡ぎながら、ぽんと頭に手を置かれた。 すぐに目を開くと、申し訳なさそうな顔をする紫音の姿があった。 「あと、言葉足らずだった。ここなら、誰の目も気にせず休めるかと思って」 「⋯⋯な、なんだぁ、そういう意味だったかぁ⋯⋯」 強ばっていた体から力が抜け、机に座る形となると、紫音は撫で始めた。 安心させるために撫でてくれているのだろうが、元々紫音に撫でられるのが好きだったので、ふにゃりと表情が緩むぐらい、安心しきっていた。 と、不意に撫でるのを止めたかと思えば、右手を手に取られ、顔に寄せていた。 「⋯⋯骨にヒビが入ってしまったんだよな」 「あ、うん⋯⋯ちょっと、思いきって殴ってしまった。はは⋯⋯」 「利き手なのに、何も持てやしないだろう」 「一ヶ月まともに何も出来やしねーな。どっしよかなー。授業、サボっちまおうかなー、なんてな」 「⋯⋯⋯だったら、」 本当にこの一ヶ月どうしようかと思い始めた。期末も一ヶ月もしないうちに始まるのになと思っていた時だった。 「⋯⋯だったら、俺が代わりになってあげたかった」

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