85 / 113
6-14
「⋯⋯触って」
思っていた言葉が口に出てしまったと気づいたのは、紫音がえっという表情を見せたからだ。
それで、自分は何を口走っているんだと思いながらも、口が止まらなかった。
「触って。もっと触って欲しい。今まで会えなかった分、触って欲しい。しおんにぃの手に触れられるの、好きだから」
「⋯⋯っ」
紫音の瞳が動揺で揺れる。が、瞼を閉じて開けた時には、さっきよりも優しくも何かを決意したかのような目つきになった。
「⋯⋯昔から、変わらないんだな」
すりすりと頬を触る。
「さっき、頭を撫でた時もそう。見るからに嬉しそうな顔をして、無防備になる」
するすると手が下りていき、首元を触れられる。
その触り方がくすぐったくて、身を竦ませる。
「くすぐったいって、しおんにぃ」
「⋯⋯可愛い、な」
思わず笑ってしまいそうになっていたが、止まった。
また頬が熱くなるのを感じる。
きっと、顔を見られたのだろう、くすりと笑われた。
「⋯⋯それだけで顔を赤くするとか。本当に、朱音は可愛いな」
「⋯⋯は、恥ずかしいから、見るなよ⋯⋯」
空いている左手を隠すように顔を覆ったが、すぐさま手を取られてしまった。「なんで」
「もっと見せてくれ。朱音の色んな表情が見たい。色んな反応が見たいから」
「こんな顔見ても、嬉しくなくない?」
「そんなわけない。⋯⋯それに、もう我慢出来なくなってきてるから」
「我慢?」
それは何のこと。
すると、紫音は失言だったというような表情をし、「なんでもない」と言いかけたが、朱音を見据えた。
紫音の心情が全く分からないのもあって、身構える。
「きっと、こんなことをしたら、朱音は俺の事を嫌いになると思う。朱音が殴った相手と同じような最低なことをしてしまうかもしれない。本当に嫌だと思った時は、俺を殴って、逃げてくれ」
「しおんにぃを殴るだなんて⋯⋯」
ありえない。
と言うような口調で言ってみるが、紫音の罪の意識に苛まれているような、悲観的な表情に、それ以上は言葉が出なかった。
何をそんなに。今から何をしようと思っている?
次から次へと疑問が溢れ、頭がこんがらがっていく。
ともだちにシェアしよう!