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「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯は⋯⋯」
紫音に触られて気持ちいいと思っていたのに、苦しみから解放されて楽になったと思ったのに。
汚してしまった。
無意識に溢れていた涙とは別に溢れていく。
「…⋯⋯朱音⋯⋯? どうして泣いてなんか⋯⋯」
「だ、だって⋯⋯しおんにぃの服、汚しちゃ⋯⋯から⋯⋯っ」
嗚咽を漏らして、涙を流していく。
紫音が慰めてくれることに最初は驚いたものの、それが段々と頭を撫でられる時と同じく、嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。
少し恥ずかしい気持ちはあったが、それを打ち消すかのように、気持ちよさが増していって、されるがままになっていった。
が、興奮の波が上り詰めた時、このまま吐き出してはいけないのではと直前になって気づき、そうして招いた結果がこれだ。
自身の後先を考えない、頭の悪さに反吐を吐いた。
「⋯⋯ごめ、ごめんなさい⋯⋯しおん──っ!」
涙が止まった。
紫音が朱音の背中に手を回したかと思うと、そのまま自身の方へ寄せたのだ。
予想だにしない行動に目をぱちくりしていた。
「⋯⋯ちょっとしたことで、泣く癖は相変わらずなんだな」
そう言いながら、ゆっくりと頭を撫でられた。
「保健室に来た時もそうだった。俺と一緒に回れなくなるからって、泣きわめいていたんだろう。大野から聞いた」
「⋯⋯そ、それは⋯⋯」
「けど、とても嬉しかった。そこまで想ってくれていると思わなかったから。とても、嬉しい」
「⋯⋯し、しおんにぃ⋯⋯っ」
ぎゅうと、さらに抱き寄せたこともあって、苦しそうな声を漏らした。
それでも紫音は緩めない。
「⋯⋯だから、そういう、小さい時に別れてからも俺だけを⋯⋯一途に想い続けてくれる、表情豊かで可愛い朱音のことが⋯⋯好きだ」
心臓が跳ね返った。
耳元に囁かれるように紡がれた言葉──告白に、頭の中で反芻する。
紫音が自分のことを、「好き」?
それってつまり⋯⋯。
「⋯⋯っと、こんなことを言われても困るだけだよな。⋯⋯忘れてくれ」
そう言いながら引き離す紫音に、「俺も⋯⋯っ」と言おうとした時。
粘着質な音が耳に聞こえてきたことにより、見下ろした。
それはついさっき放った精をカーディガンに受け止めたが、紫音に抱きしめられたことによって、朱音の服にもついたもの。
体が固まった。
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