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その後、どうやって教室へと戻ったのか憶えていなかった。
文化祭の終わりを告げるアナウンスが流れたから、体が勝手に動き出したからなのか、それとも、知らぬ間に歩いている時に捜しに来てくれた大野と共に戻ったからなのか。
だが、今の朱音にはそれは至極どうでもいいことだった。
今は「邪魔」と言い放った紫音に対する激しいショックによる放心状態となり、何もする気にはならなくなっていたからだ。
だから、教室に入った直後、委員長が朱音がしでかしたことについて、自身が私情を含めた浅はかな考えのせいで、嫌な思いをさせたと真っ先に来て謝罪していたが、全く耳に入らず、返事も出来ずにいた。
クラスメートが朱音の異様な雰囲気にざわついてきたのを、大野はその合間を縫い、簡易更衣室へと入り、着替えを促した。
「ほら、朱音。それをさっさと脱いじまえ。いつまでもその格好でいたら寒いだろ」
「⋯⋯」
「にしても、女子ってすげーよな。こんな短いスカートを寒いとも思わずに履いていられるんだからさ。あ、けど、あのむちむちした生足を見られるのは、サイコーなんだけどさ」
「⋯⋯⋯」
いつまで経ってもエプロンを握りしめたまま微動だにしない朱音に、ワイシャツを着終わった大野は、頬をつねった。
「いっひゃい⋯⋯!」
つねったままで滑舌の悪い言い方になっている朱音は、痛いから離せと抗議するが、大野はいつにも増して真剣な顔をしていたことに口を噤んだ。
「あのな、朱音。俺はお前が何があったのかは全く知らない。が、どうせあの先輩のことなんだろうが。でもな、いつまでもそうしていても仕方ないんだよ。せっかく委員長がクッソしょうもない朱音の嫌がらせを、やっと気づいて謝りに来てたのに、お前はガン無視だし。それだけはきちんとしておけよ」
「⋯⋯ひゃって」
「⋯⋯あ?」
頬を緩められる。
「⋯⋯だって、ずっと想い続けていた人が実は俺のことが好きで、突然告りもしたクセに、そのことに頭が追いついてない間に、急に態度を変えて、もう目の前に来ないでくれって、邪魔だからって言われたら、俺、どうしたら⋯⋯──」
「今の話聞かせてもらったわ!」
「「!?!?」」
突如、第三者の声が聞こえ、心臓が飛び出んばかりに驚いた。
その拍子に頬から手が離れた。
バッと声がした方へ一斉に向くと、カーテンの隙間から顔を出す委員長の姿があった。
「バッ、てめー! 勝手に聞いてんじゃねーし、覗くんじゃねーよ!」
「兄弟がパンツ一丁でうろついているの見慣れているから、アンタのしょうもないパンツ見てもバカみたいに騒がないわよ」
「しょ、しょうもなくねーし⋯⋯っ!」
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