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スキップしそうな足取りで委員長が先にゴミ捨て場へと行くのを目で追っていた。 この後、締めとして紫音のヴァイオリン演奏がある。 さっきは自分のことしか考えていなかったが、紫音も複雑な気持ちを抱えて、表面上では冷静に事をやらなければならない。 自身の気持ちを音色で表してしまう人だ。せめて、どうにかみんなの前では平静さを装って欲しい。 ──だなんて思うのは、それも都合のいい話なんだろう。 だけれども。 ただ今の自分には、無事に成功しますようにと、祈ることしか出来なかった。 何事もなく片付けが終わり、各クラスごとに整列をし、体育館へと集まる。 文化祭から終わって間もないものもあって、あちこちでは文化祭での話で盛り上がり、ざわついていた。 しかし、静粛を促すアナウンスが何度も促されたことにより、徐々に静寂な雰囲気に包まれた。 閉会式が始まる。 心なしか落ち着かない気持ちになり、膝上に置いていた右手を左手で触っていた。 そうした中、ステージ上の壁にプロジェクターで映像を流していく。 いつの間にか撮っていたらしい、各学年、クラスごとの出し物をしている様子。 一般客と生徒が交わり、ざわめいた様子、どこかのクラスの出し物らしい、射的をしている小さな子どもが、その生徒が取りやすい位置に置いてあげている様子、ギターやらドラムやらキーボードをそれぞれ持ち、演奏している様子、そして、ゾンビに扮した生徒に向かって、射撃している様子などと、次から次へと、まるで録画した番組をコマ送りしているかのように映像が切り替わっていく。 結局、紫音のクラスには行けなかった。だから、映像を出されても憶えてもない記憶を見せられているようで、ちっとも面白くなかった。 思い返せば、食べ物を食べに行ったぐらいで、何かで遊んだのはなかった。 それ以上に、事の成り行きで紫音の手で慰めてもらったことが脳裏に浮かぶ。 「⋯⋯!」 瞬時に赤くなる。 紫音の一言に落ち込んでいて忘れていたが、そんなことがあった。いや、忘れておけば良かった。 思い出した場所が悪かった。せめて、自室で思い出して、思い出し慰めを──。 「はい、次はどの出し物が良かったかを順位を発表します!」 映像を観る時間は終わっていたらしい、突如としてマイクで響いた声に、びくりと肩を震わせ、今何を考えていたんだと、我に返った。 そして、映像と共に三位から順番に発表され、上がったクラスから歓喜の声が上がり、それ以外は拍手をしていた。 きっと、自分達のクラスはないだろう。 朱音は、いや、朱音のクラス全員は思っていることかもしれない。案の定、一位まで呼ばれることはなかった。 一位で呼ばれたクラスの異常なはしゃぎように、力のない拍手を送っていた。 クラスに戻った時のクラスの人達の反応が怖い。 全員が全員、文化祭に対して積極的ではないけれども、皮肉にもあのことがきっかけで委員長やそれを取り巻く女子達とは一方的に嫌われることは無くなったけれども、一生懸命やろうとしていた人からは、口では言わないものの、雰囲気から気まずさは漂うことだろう。 高校生になって初めての文化祭がこんなことになるとは。 無意識に苦笑を漏らした。

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