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「それでは次で最後となりますが、毎年恒例、そして、今年最後となります、三年A組新倉紫音君のヴァイオリン演奏で締めらせて頂きます。新倉君、お願いします」
ライトに照らされていた司会者の生徒から、ステージ上の舞台袖から出てくる紫音の姿を照らし、追っていく。
その姿を捉えた途端、心臓がズキリと痛んだ。
さりげなく胸辺りを掴み、片手にヴァイオリンを持った紫音が全校生徒の前で一礼するのを見つめていた。
さっきから聞こえる、小さな黄色い悲鳴。
そして、それらをかき消すようにヴァイオリンの音が体育館中に響いた。
屋上で聞いていたような曲ではなく、激しく、圧倒される弓で紡がれる音に誰もが口を閉ざしたまま、魅入っていた。
圧巻させてしまう紫音の音色は流石だ、素敵だと思いたいのだが。
胸の痛みが止まらない。
痛くて、痛くて、涙が溢れそうになる。
こんなところで泣きたくない。耐えなくては。
胸を掴んでいた手をぎゅうと掴み、堪えていた、その時だった。
ブチンッ
美しい音色を一瞬にして、かき消したふさわしくないその音は、今ヴァイオリンの音を拾うために近くに置かれたマイクからだった。
瞬間、音は消え、弓を下ろし、ヴァイオリンを見つめたままの紫音の姿があった。
途端、生徒達は「何の音?」「演出?」「いや、弦が切れたみたい」とざわめき始めた。
その時、静かにするようにと促す声と、ライトが消え、暗くなったステージ上から袖に引っ込む紫音が見えた。
しばらくしてようやく静かになったが、その後、紫音が再び現れることもなく、そのままの流れで閉会式は強制的に終わることとなった。
こんな終わり方は釈然としないだろう。
実際に教室に帰った途端、その話題でもちきりで話は尽きることはなく、そんな中朱音は、弦が切れて呆然と立ち尽くす紫音の姿が脳裏に焼き付いて離れなく、それはそれで悩ませるものの一つとなってしまったのであった。
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