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そんなごたついた閉会式の日から日が過ぎていき、そろそろ右手が治りかけた頃合いに期末が始まった。
今回は、委員長や女子達に教えられたこともあって、難なく試験に臨めそうだった。
問題は、利き手じゃない方の手でどう解答用紙に書いていくのかだった。
授業中でも何とか書けるようにと、頑張って書いてみたものの、後で読み返してみたら、きっと、何を書いてあるのか分からない程度のもので、何度も挫けそうになっていた。
先生に、今回の試験はやらなくてもいいと言われた直後は、喜びの声を上げかけたが、その後の、「冬休みに補習として来るのなら」と付け加えられた時には、何がなんでもしてやろうと思っていた。
大野が横で「仲間になろうぜ〜」と、やる前から赤点確実な言い方をして、肩を組んで誘ってくるのもあったが。
それらをバネにした結果、汚いながらもどうにか書き、そして、ギリギリのところで赤点を免れたのは、本当、奇跡と教えてくれた人達がいるおかげだと思った。
そうした日々を過ごしていくうちに、傷心が癒されていった。
この調子であれば、日々募っていく紫音への気持ちが伝えられるかもしれない。
そうして、怪我が完治し、冬休み、三学期となり、一月、二月と過ぎていき、そして三月。
今、人生の中で一番緊張しているのではないだろうか。
全校生徒が体育館に集まり、今日一番の主役である三年生を拍手で迎えながら、高鳴る心臓の音を聞いていた。
三年A組が入場し、真っ先に目を追ってしまうのは、募りに募った想いを告げようとしている人の姿。
文化祭以来会ってない彼は、変わらずであったが、前よりも影を落としているように見えた。
今年最後であるのに、全校生徒の前で大失敗したことを引きずっているのかと思い至った。
三年生が全員入場し終え、校歌斉唱、祝言、そして、卒業証書授与が始まった。
一人ずつ呼ばれ、その場に返事しながら立ち上がり、クラスの代表が代わりに賞状を貰いに行く、という形で進行していく。
「三年A組新倉紫音」
「はい」
低音で、優しく響き渡る返事をし、すっと立ち上がった。
紫音の声だ。
ヴァイオリンの音色を聞いていた時は、胸の痛みが止まらなかったが、今は不思議と心地よいと思っていた。
これなら、大丈夫だ、これなら、きっと。
A組の生徒が全員呼ばれ、代表者であったらしい、紫音が呼ばれ、賞状を受け取りに行く。
その間も優雅な足取り、そして、来賓席に一礼する様が見惚れてしまうほど美しく、意識していなければ感嘆していたことだろう。
だが、朱音の代わりのように声を漏らしてしまう女子がいたが、幸いにも周りが僅かに聞こえたぐらいの声量であった。
そうして、紫音は無事、校長先生から賞状を受け取り、その後も滞りなく、三年全員の授与式は終わり、退場していくのであった。
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