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「うぅ〜、新倉先輩がぁ⋯⋯」 「私も、悲しいわ⋯⋯毎日の生きがいが⋯⋯うぅっ」 教室に戻り、大野らと他愛ない話をしていると、そばの席で泣き始めている女子達がいた。 みんながみんな、紫音のこと好きだよなと思いながら、聞いてないフリをして話し込んでいると、急に肩を掴まれた。 「ひゃい!」と変な声を上げながら、段々と強めてくる手を退けてもらおうと、その方向へ向けると、そこで泣き腫らしていた女子のそばにいた委員長がいた。 「あんたに対して罪を犯した私が言うのもなんだけど、あんたも結構罪な男よね⋯⋯」 「いっ、いってぇ! 俺が何をしたって言うんだよ!」 「大いなる罪であるけど、その罪も私も加担してしまったからね。そして、女に二言はないわ」 「え、なになに? なんでそんな男らしいの、委員長?」 「朝田君、今日が最後なのよ。この意味分かる?」 委員長に言われなくてもそれは分かっていた。 この日をずっと前から、心の準備をして、待っていた。 だから、この後⋯⋯。 「多分、すぐに帰ってしまうかもしれないわね。今すぐにでも行ってくれば?」 手が緩んだかと思えば、ポンと肩を軽く叩かれた。 歯を見せて、親指を立てる委員長にぽかんとしていたものの、すぐさま同じことをして、返した。 が、その直後に髪を乱暴に撫でられ、驚きつつも怒った。 「いやぁ、一年の春ぐらいに出会った頃から、"お兄ちゃん"を一途に想っているめちゃめちゃブラコンな奴だなと面白がっていたが、まさかこんなになるとはなぁ」 「大野! 止めろって!」 「はいはい。早く行ってくれ。いい結果待ってるぜ」 「⋯⋯クソ、人をマジでオモチャのように面白がって」 大野の手を叩きながら、そう悪態を吐き、席から立ち上がると、早々に教室を出て行った。 その途中で担任に出くわし、「HRが始まるからね」と言ってきたが、「腹痛いんで、トイレ行ってきます」と嘘をついて、廊下を駆け抜けていった。 紫音はこの日でもあの場所で一人、佇んでいることだろう。 階段を駆け登り、扉の窓を覗くことはなく、その勢いのまま開けた。 びゅうと、春の風が吹き込んでいき、目を細めていたが、視界の先に映ったものを捉えた瞬間、駆け出していた。 青空の下、校庭の方を見ている人物は、朱音の走る音で気づいたらしい、振り向いた。 「しお⋯⋯」 走る足が止まり、好きな人の名前も途切れてしまった。

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