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頬に伝うきらめいたものに気づいてしまったからだ。 そして、次に見たのは、携帯端末から外したものとみられる、あのストラップを手に持っていた。 何が、どうして。 一つも状況が分からず、困惑した表情を浮かべる朱音に、紫音はまた一筋流した。 「⋯⋯えっ、──っ」 それに虚を突かれていると、ふいに抱擁される。 突然の紫音の温もりに、頭が追いつかなかった。 いきなり、何なんだろうか。 考えがまとまってないのもあり、つっかえる形で何とか問おうとした時。 「⋯⋯僕、やっぱりダメだよ⋯⋯ぉ⋯⋯」 そう言った直後、堰を切ったように肩越しで泣く声が聞こえた。 文化祭の時に、保健室で聞いたような、口調と一人称。けれど、突然どうしてそのようなことに。 「し、しおんにぃ?」 「朱音のことが好きで好きで仕方なくて、でもッ! きっと、こんな僕じゃまた会った時に朱音にドン引きされそうだし、何より朱音が憧れていたお兄ちゃんのヴァイオレットのようにならなくちゃって思ってヴァイオレットの真似をしてクールさを装っていたけどいざ朱音の前にしたら優しい声で甘やかしたくなっちゃいそうでそれを隠すために突き放すような言い方ををしちゃったんだよごめんね本当にごめんねぇ!」 「え、えー⋯⋯っと⋯⋯」 早口で言い切った紫音は「わーっ!」と泣き叫び、さらに泣いていたが、朱音はどう言葉を掛けたらいいのか分からなくなった。 まず分かったことは、昔観ていた戦隊モノに登場したヴァイオレットの真似をして、冷静沈着で淡々とした口調をしていたこと。 そして、紫音も大概に実の兄弟の関係であれば弟が大好き過ぎて甘やかしたくなるブラコンお兄ちゃんであったこと。 昔は物静かで優しい兄だと思っていた人が、こんなにも騒がしく、口数が多い人だとは思わなかった。 何なんだ、これは。でも。 「⋯⋯ふはっ」 「⋯⋯朱音?」 朱音の急な異変に、一瞬にして泣き止み、肩から離れ、きょとんとした紫音が見ていた。 泣き腫らした紫音なんて見たことがない、とそんな些細なことも笑いへと変わった。 「あっははは! 何だしそれ! しおんにぃって、そんなキャラだったわけ? めっちゃくちゃ面白すぎるんだけど!」 「え⋯⋯幻滅、した?」 「そんなわけない! むしろ、昔と変わらない部分もあって、やっぱ俺のことが好きなんだって分かって、心から安心したところ! しおんにぃって、静かにしていたから、こんなも騒がしくするだなんて思わなかった」 「あ、⋯⋯それは」

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