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眉を下げ、不安げに何かに傷ついたような顔をしたことにより、朱音は笑うのを止めた。 「あ、俺、何か余計なことを⋯⋯?」 「あ、ううん。違う。そうじゃなくて⋯⋯⋯⋯」 持っていたストラップをぎゅうと握りしめて、唇を噛む紫音の姿に、朱音も眉を下げていた。 多分、ヴァイオリンを弾いていたならば、何か言いたいことがあるけど言えないという状態だ。 ならば。 握りしめている手を手に取った。すると、驚いた様子の紫音と目が合うと、ニカッと笑う。 「しおんにぃ。言いたいことがあるなら、言ってもいいんだぜ。俺なんかに遠慮しなくていいからさ」 「でも⋯⋯⋯」 「てか、あんな切り方をしたら、余計に気になるし。あと、もっとしおんにぃのことを知りたいからさ」 「~っ!」 じんわりと涙が溢れていくのが見えた。 これはまた泣くのかと、思わず身構えたが、ぐっと堪えたようで、涙は引っ込んでいた。 それにホッとしていると、反対の手で朱音の手の上に優しく重ねた。 「じゃあ、僕の話、聞いてくれる⋯⋯?」 恐る恐ると言ったように言うと、迷う素振りを見せながら少しずつ語り始めた。 紫音が産まれた新倉一家は、代々音楽家を輩出している一族だった。 そこに嫁いできた母も、父と同じぐらい才のある人物で特にヴァイオリンを得意としていた。 だから、産まれてきた我が子にも物心が着いた頃から有無を言わせず、ヴァイオリンを習わせたのだという。 そして、名に恥じぬよう、塾やら水泳やらのいくつものの習い事と、さらには言葉遣いやマナーもやらせた。 だが、幼かった紫音には荷が重すぎて、しかもまだ親に甘えたく、遊びたい盛りもあって、親の思うようにならない時があった。 そのことに苛立った母親は、その度に臀部に消えない傷を負わせたのだという。 痛いと泣いても叩かれる、すぐにやらないと叩かれるのもあって、いつしか紫音は、親の言うことを聞くことしか出来ない駒になっていた。 「⋯⋯そんなことがあったんだな」 「⋯⋯うん。だから、自分の感情が分からなかったから、さっき朱音にそう言われるとは思わなくて⋯⋯」 「ちょっとびっくりしたけど、今まで騒げなかった分、騒いでもいいんじゃん? 俺なんていつも騒いでいるし」 「たしかに。初めて会った時は、人見知りする子だなと思ってたけど、僕に懐いてからは突然はしゃいだりするから、驚きの連続だったよ」 「⋯⋯それは、ごめん」 「けど、それも愛おしく感じたよ」

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