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そう言って、微笑む紫音に心臓が跳ね返った。
「ふふっ、朱音。急に赤くしてどうしたの? 可愛い」
「⋯⋯っ、可愛いって言うなよ⋯⋯」
手で隠そうとする朱音の頭を愛おしげに撫でていた。
と、ひとしきり撫でるかと思えば、急に止まった。
そのことに首を傾げていると、口を開いた。
「⋯⋯僕がね、朝田家に預けられたのは、母の策略でもあったんだよ」
「⋯⋯さく、りゃく?」
「⋯⋯⋯同年代の子が、どんな愚かな行為をし、いかに自分達が優秀な家柄であることを改めて考えさせようとしていた」
「⋯⋯!」
目を見開いた。
何がどうして、そのような発想に至るのだろうか。
「だけど、当時の僕はそんなことを知る余地もないし、今は絶対に思わない、あんな母でも離れるのが嫌だと思っていたのだけど、母の言うことは絶対だから、言われるがままに預けられることになったの」
「⋯⋯だから、なんだ。俺には優しく笑ってくれるけど、母親に向ける顔がどことなく寂しそうに見えたから。俺の記憶違いかと思ってた」
紫音が目を丸くした。
何かいけないことでも言ったのかと思っていると、「⋯⋯すごい」と感嘆を漏らしていた。
「そういうところを見ていた上に、ちゃんと憶えていたんだね。本当は頭がいいんじゃないのかな。僕は、朱音に教えられてとっても嬉しかったんだけど、ちゃんと勉強出来そうだね」
「ちょ、ちょ! しおんにぃ、買いかぶりすぎだって!」
「⋯⋯だって、そう思わないと、これから先、近くで見守ることも出来ないし」
「あ⋯⋯⋯」
今日は卒業式。だから、明日からは紫音はこの学校にはいない。
すごく当たり前のことだが、その当たり前を受け入れたくなかった。
だから、せめてこの想いを告げなければ。
「しおんにぃ⋯⋯俺──」
「だってさ、朱音のおかげで知った戦隊モノにハマったことがきっかけで、俳優デビューが決まったんだよ! 嬉しくもあるけど、寂しくあるんだよ⋯⋯!」
またぎゅうぎゅうに抱きしめながら言う紫音に圧倒されながらも、言った言葉を遅れて理解し、「ん?」と声を上げた。
「え、今、なんて?」
すると、名残惜しそうに離れ、また涙ぐんでいた紫音が鼻を啜って、「もう一度言うね」と前置きした。
「戦隊モノのヒーローになろうとしたんだけど、事務所に所属しないといけないみたいで、だから俳優になったんだ⋯⋯。だから、その意味もあって、演技していたのもあるんだけど」
「えっ、え⋯⋯頭がついていかないんですけど⋯⋯⋯」
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