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「嬉しい、嬉しい」と首元辺りを頭を擦り寄せてくる紫音の柔らかい髪が当たり、くすぐったさを覚えつつ、その紫がかった黒髪を撫でた。 今までよく耐えてきた。頑張ったという意味を込めて。 「けど、」と顔を上げた。 「朱音に頭の良さを褒められて嬉しいけど、運動面はどうだろうね」 「それって、どういう⋯⋯」 「前に体育祭は出ないって言ったの、憶えてる?」 「うん」 二学期に入って始めて会った時に、朱音が話題にしたものだ。 自分でしたものだから、特に覚えていると頷くと、「ちゃんと憶えているの? えらいね」と頭を撫でられた。 「僕ね、体育祭もそうだけど、体育ってこと自体出たことがないんだ」 「えっ!? なんで!?」 「なんでも、体育している最中に特に手を怪我をしたら、ヴァイオリンを弾けなくなるからだって。一日たりとも弾かなくなったら、腕がなまるとも言ってたかな」 「そんな理由で⋯⋯」 やっぱり、紫音の家庭環境は一般家庭とは程遠い環境だったようだ。 「けど、そんなことじゃなくても、文化祭の時、朱音を傷つけるような言い方をしてしまったせいで、あるまじきことをしてしまったのだから、簡単に弾けなくなるよなって」 「え、あれってやっぱ、俺のせいだった⋯⋯?」 「とんでもない! そんなわけないよ! さっきも言ったけど、気持ちが大爆発しそうで、けど、そんなんじゃクールキャラじゃないと葛藤したせいだから! 決して、朱音のせいじゃないよ!」 ずいっと必死になって言う顔が迫り、その整った顔を間近で見るのは心臓に悪いのですがと、オロオロしていた。 ──と。そこで、大きな物音が聞こえた。 二人はとっさに音がした方──屋上への出入り口を見たが、驚いた。 なんと、朱音の友人、大野を始め、委員長と女子達がなだれ込んでいたのだ。 なんで、そんなことに。というよりも、いつからいたのだろうか。 紫音が素早く起き上がり、続いて自然と手を差し出してきたことにより、それを支えに立ち上がると、大野達はそれぞれ起き上がった。 「いやぁ、バレちまったな」 「だから、押すなって言ったでしょ!」 「いや、押したのはアンタでしょうよ⋯⋯」 「誰でもいいわ、めんどくさい」 言い合いながらこちらに向かってくるのを、朱音を庇い、前に出た紫音が鋭い目つきで彼らのことを見据えた。 「⋯⋯一体、何の用だ」

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