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低く唸るような声に、小さくも喜びの声を上げていると、「⋯⋯嬉しい声。ありがとう」と頭を撫でてくれた。 「あー、やっぱ、お邪魔じゃね?」 「けどけど!いいものを見させて頂きました!」 「眼福⋯⋯眼福⋯⋯っ!」 大野は頭をかき、委員長と女子達は何故か恍惚とした表情で手を合わせていた。 と、すぐさま大野は、「じゃあ、俺達はこれで」と合掌したまま動こうとしない女子達を無理やり押しやって出て行った。 「何なんだ、本当⋯⋯」 「まるで、人を見世物みたいに見て、風のように去っていったね⋯⋯」 大野達が出て行った方向を呆然と見やっていたものの、目を合わせた途端、ふっと笑った。 「高校生最後に、いい思い出がまた一つ増えたよ。朱音のクラスの人達は愉快な人達ばかりで楽しそうだね」 「まあ、そうだな。いつもああやって騒がしいんだが、飽きやしないかも」 ふふと笑っていた紫音であたが、そう朱音が言った時、ふっと笑みが消えた。 「⋯⋯本当に、楽しそうだよね。僕も朱音と同い歳だったら良かった。そしたら、これから先だって朱音と一緒にいられたのに。自分で選んだ道だけど、俳優やっていけるかな⋯⋯何だか、今さら後悔してるな⋯⋯」 手元を見つめる紫音の目が悲しみに溢れていたことにより、朱音は胸が痛んだ。 しかし、そうなったのは一瞬で、気づけばポケットから携帯端末を取り出し、あのストラップを紫音の手のひらにあるストラップを重ねた。 ぴったりとはまらないが、ハートの形に何とかなっていた。 「どんなに離れていても、心ではずっと繋がっている。これがあれば忘れない」 「その言葉⋯⋯」 「しおんにぃが昔、言ってくれたやつ。少し違うかもしれないけど、これのおかげで俺はずっとしおんにぃのことを想い続けてた。しおんにぃも同じだろ? だから、これから先だって、心ではずっと繋がっているから、俳優頑張ってくれ」 「⋯⋯朱音⋯⋯っ」 告ってから何度目だろうと思われる、抱擁と嗚咽を漏らす声にようやく慣れた朱音は、苦笑気味にその背中をポンポンと軽く叩いた。 離れてしまうと自分でも不安に思っていたことだった。けど、この手の内にある小さな宝物を胸に、想い続けていたら、きっとまた会いに来てくれる。 それにだって、自分達は幼馴染み以上の関係になったのだから、すぐにこの関係を解消されるなんてたまったもんじゃない。 だから、愛してくれる人の帰りをずっと待ちながら、遠くで応援し続ける。 今度は泣き止みそうにない紫音のことをあやしながら、朱音はそう誓うのであった。

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