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卒業式の後の話。※軽度性描写

普段、一人であれば聞かない唇を重ねる音が、朱音の部屋に響く。 ベッドに縫いつけられた朱音に覆い被さる紫音との音が、いやに意識させられてしまい、頬を朱に滲ませた。 ついさきほど、屋上で自らの気持ちを伝えて、紫音が嬉しそうにそれに応えてくれたことも、今目の前で起きている恋人としてする行為も、どこか夢の中の出来事のように感じられる。 それは積極的にキスの雨を降らし、その想いに溺れ、思考が思うように働かないせいだろうか。 と、ふっと、我に返った様子の紫音の唇が離れた。 今まで感じていた熱が不意に冷めた寂しさで、ほぼ同時のタイミングで呼吸を整える紫音のことを見つめていた。 「······ようやく、二人きりになれたと思ったら、嬉しくて······苦しく、なかった?」 「······ううん。しおんにぃが、俺のこと、好きってたくさん伝わるから······嬉し──っ」 朱に染まった頬を慰めるように撫でていた紫音が、急にまた口を塞いできた。 二、三度リップ音を鳴らすと、熱を吐いた。 「······僕も、嬉しい······。幼なじみとして、あるいは兄弟のようにずっと、好きだった大切な人が······こうして、恋人として好きになったのも······とても、嬉しいよ」 穏やかな夜のように、慈しみの笑みを向けられる。 自分にだけ向けてくる、この表情が好きだな。 朱音も一緒になって笑っていた。 「······朱音に、しおんにぃって呼ばれるのもとても好きだけど、この間だけでもいい。さっきみたいに、紫音って呼んで」 ようやく紫音と会えた時、思い出すのも嫌なぐらい嫌悪感丸出しで、命令口調でそう言われたのとは打って変わっての、昔から変わらずの柔和な笑みに、視界が滲んでいく。 「え、どうしたの! やっぱり、嫌······?」 「違う」 狼狽えている紫音に、涙を拭きながらはっきりと否定した。

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