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4.
そんなことを言われるとは思わなかったというような、驚きの表情を向けられ、さらに朱が帯びる。
「······お、お願い聞いてくれるんじゃ、なかったのかよ······っ」
「あ、いや、そうだけど······。朱音の口から、そう言われるとは思わなくて」
「······祭の時に、少しだけ期待してたし」
「え?」
「だから! 文化祭の時、そうしてくれると期待してたんだよ!」
戸惑いを覚える紫音に向かって、恥ずかしげに言い放った。
「あー、はずいはずい」と、手で仰いでいると、「文化祭······」と呟いた。
「あのメイド服を着た朱音、可愛かったな」
「あれ、本当に思っていたわけっ?!」
汚れてしまったエプロンを取っても、可愛いと言っていたが、本性が見え隠れしていたということか。
うっとりとした顔で言うものだから、若干引いてしまった。
「あの時の自分は本当に馬鹿だなって思ったよ。朱音のそれはそれは可愛いメイド姿を、写真に撮ることを忘れて! あの日から、それも含めてずっと悔やんでいたんだ」
「え、そういうことも?」
「だからね、もう一回着て欲しくて持ってきたんだ」
「······まあ、俺ばかり聞いてもらっているのもなんだから、まだ持ってるし······──って、今何て?」
聞き返す朱音の前に、カバンから取り出した"答え"が目の前に掲げられた。
露出の少ない、長袖で丈の長い、やはりヒラヒラとしたメイド服。
「······てか、卒業式っていう時に入れてあったの······」
「あの日から、メイドというものに興味が湧いてね。ずっと朱音に似合うメイド服を探していたんだ」
爽やかに笑う彼に、紫音の性癖を歪めてしまったと、好きな表情であるのにも関わらず、今は見てられないと顔を覆った。
「じゃあ、早速着替えようか」
「······う、うん。まあ、着替えるわ。⋯⋯──?」
ブレザーから脱いでいき、カーディガンに手をかけようとした時、紫音の手が伸び、てきぱきとボタンを外していく。
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