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第3話
「ご主人様、お背中流しますよ…♡」
「あぁっ!?おめー風呂まで付いてくんじゃねぇよ!!!」
「えへへ…」
カオルは、竹崎の後を何処までも付いてくる。
「何だよ、こいつ…」
「奴隷は、こき使っていいんですよ♡」
「はぁ…」
竹崎には、こんなつもりはなかった。
別に、この国民的人気モデル兼俳優と奴隷契約を交わしたかった訳じゃない。
なんか、いつの間にかこうなっていた。
ただ、からかっただけのつもりだったのに。
「なんでこうなった」
「ん…♡」
カオルは竹崎の全身を舐めていた。
足まで舐めてくる。少し擽ったい。
端正な顔立ちも勿体ない。
「…はぁ……参ったな」
「んぅ……?洗い足りないですか?」
「違ぇよ!」
「えへへ…♡でも、綺麗になりましたよ」
「なる訳ねぇだろ。ほら、どけ」
「ん……」
シャワーを浴びていると、カオルは寂しそうな子犬の目をする。
「こいつ…。明日も仕事だろ!?早く寝ろよ」
「ご主人様より先には寝られません!」
「あ〜あ〜はいはい。」
なんやかんやで、風呂は終えた。
「なんで風呂入るだけでこんな疲れるんだ」
「疲れましたか!?僕が癒して…!」
「要らねぇよ!!!また何かしようとするだろ」
「…ただ、ご主人様を癒して……」
「分かった分かった!要らねぇから!疲れてねぇから!」
「……ん…そうですか?」
疲れた、というと、必ず何かで癒そうとしてくる。
癒すといっても、大体いやらしいことだが。
カオルの性欲のパラメーターはバグっている。
賢者タイムとか言葉すら知らねぇんだろうな、竹崎はそう思っていた。
ようやく寝室に行き、竹崎はベッドに座り、カオルは床に座った。
「……いい加減、普通に寝たらどうだ?せめてソファとか。」
「…下僕如きが、ご主人様の大切なソファに……」
「なんだよ今更。ソファにもベッドにも、ザーメンぶちまけといてよ。」
「すみません…」
「……もうセックスもしてる仲だろうがよ。ベッドでもソファでも、好きな方で寝ろよ。お前の商売道具、雑に扱うんじゃねぇ。いいな?」
「…はい…。」
カオルはそっと竹崎の座っていたベッドに座った。
「……ベッドで寝るか?」
「はい…」
「……その方がいいぜ。」
竹崎はカメラマンだ。カオルは大事な被写体。
テレビや雑誌に引っ張りだこのカオルの身体が傷だらけになるなんて、許さない。
「男が二人、同じベッドなんてむさ苦しいな」
「じゃあ…僕はソファに…」
「そんなソファ長くねぇよ。自分の身体の長さ考えろ」
「……はい」
同じベッドで寝ることをカオルはいつも申し訳なさそうにする。
「…俺と寝るの嫌か?」
「そ、そんな!!いいのかなぁって」
「……んだよ、俺が一緒に寝たいみてぇじゃねぇか」
「…寝たくないですか?」
「だからぁ!!別にいいだろって言ってんの!寝たいとも寝たくないとも言ってねぇっての!!」
「……」
カオルはそっとベッドに横になった。
「…ほら、かけろよ」
「ありがとうございます…」
竹崎はカオルに布団をかけた。
子供を寝かせている気分になった。
「……はぁ……」
「……」
竹崎が少しの間黙っていると、いつの間にかカオルの寝息が聞こえた。
「……寝てねぇんだな…」
そっとカオルの黒髪を撫でた。
さらさらしてて、ふわふわしてて。
寝顔はあどけない。
「……カオル」
そう囁いて、寝顔を写真に写した。
「…可愛い、」
ん?今、俺、可愛いって言ったか?
竹崎は困惑した。自分から無意識に出た言葉に驚いた。
カオルがこんなド変態じゃなかったらなぁ。普通に出会っていたらな。つくづく思う。
「……寝るか…」
次の日の朝。カオルは一人、ベッドで寝ていた。
「ご主人様…?」
久しくゆっくり寝た気がした。欠伸しながら、身体を伸ばした。全裸で寝ていたカオルはそのままリビングへ出た。
「……あっ…」
竹崎はソファで寝ていた。鼾をかいていた。
「ふふっ」
本当のオヤジみたいな竹崎を見て笑った。
静かに竹崎に近付いて、額にキスした。
「大好きです、ご主人様。一生傍にいます。」
カオルは、そう囁いた。
竹崎は起きる訳もなくて。
カオルは朝早くから家を出た。
「ふぁ……」
竹崎が起きる時には、カオルは居なかった。
「…ん。」
毛布が重ねられていた。そして、朝食も出来上がっていた。テーブルには、置き手紙も。
〝先にお仕事行ってきます。ご主人様、今日も頑張ってくださいね♡〟
「……嫁かよ。」
ふっと鼻で笑った。
この日、カオルは朝の情報番組でゲスト出演。竹崎は近場でロケ。
互いに他局だったので、今日は会わない、そう思っていた。
「…あーっ!♡♡」
「げ」
午後、カオルが竹崎の働く局にいた。
「なんでここに居るんだ」
「これからドラマの宣伝で…!」
「…忘れてた…」
「現場、一緒ですね♡」
「あぁ。」
「今日は、これで最後ですか?」
「…んまぁ、な。」
すると、カオルは竹崎に耳打ちした。
「ご主人様、これ……」
「ん?」
こっそり手渡されたのは、遠隔ローターのリモコン。
「お前、まさか…」
「…僕を虐めてください…♡♡♡」
「断る。」
「えっ…でももう…入って……」
「収録が延びたらどうする」
「大丈夫ですよ、何回もやったことあるし」
「はぁ??自分でか?」
「はい。その時も大丈夫でした。」
カオルは、けろっとしていて、竹崎は呆れた。
「だいじょばねぇっての…」
『今日のゲストは、藤野カオルさんでーす!』
「よろしくお願いします」
トーク番組の収録。
竹崎はカメラマンをしていた。
カオルから渡されたリモコンはポケットに入れて、触らなかった。
『そんなカオルさんにですね、VTRが届いています!どうぞ!』
VTRを見る時、カオルはふと一瞬竹崎を見た。
「……」
なぜ強くしないの? そう目で訴えられた。
する訳ねぇだろうが。
『…続きまして、ゲームチャレンジのコーナーです!』
この番組の企画で、ゲストに様々なゲームを挑戦してもらい、成功したら豪華商品をゲット出来る、というもの。
竹崎はカメラを動かして、カオルの表情を追った。
今回はミニバスケのようなゲーム。
身体能力も高いカオルは軽々と成功すると期待されていた。
「…ん?カオル君、どうした?」
竹崎の後ろにいたプロデューサーが呟いた。
少し、動きが鈍くなっていた。足が上手く動いていないようで、スタッフは皆心配に思うくらいだった。
しかし、カオルはゲームを成功させた。
カオルは顔が紅潮して、息を切らしていた。
「一旦休憩しまーす!」
スタッフが声を上げた。
「カオルさん、大丈夫ですか」
「す、すみません。久しぶりにバスケしたなぁって……えへへ」
「お水どうぞ」
「ありがとうございます」
カオルは汗を拭いて、暫くして顔色も戻った。
「再開しまーす!」
「すみませんでした」
カオルはスタッフに頭を下げた。
「……」
竹崎は自分の仕事に集中するだけだった。
『カオルさんから、大事なお知らせです!』
「はい…!僕が出演するドラマ、〝コールミーアゲイン〟月曜9時…放送中です…。ぜ、是非、観てください…!」
カオルは平気そうにするが、やっぱり不調そうだ。
せっかく治った顔色もまた紅潮し始めた。息を切らし按配で、笑っていた。
『カオルさん!今日はありがとうございました!それでは皆さん、また来週〜!!』
「はい、OKでーす!!!」
スタッフはカオルに駆け寄った。
「カオルさん!大丈夫ですか?!」
「とりあえず楽屋に行きましょう……!」
「だ、大丈夫です……すみません。すみません、迷惑かけました。ありがとうございました。」
カオルはスタジオにいるスタッフに頭を下げながら楽屋に戻った。
「大丈夫ですかね、カオルさん。」
カメラマン仲間の山田。若手だが、竹崎とタメで話す。
「さぁな。録りなおしにならないといいが」
「冷たいっすよ、竹崎さん。」
「…芸能界っつーのは厳しい世界だ。」
「いやーでもなぁ。カオルさんと仲良いんでしょ?」
「まぁ、ちょっと飯食うぐらいだけど」
「えーっ、嘘だ。」
「何がだよ、」
「だって、家行き来するほど仲良いって」
「何処情報だよ」
「え、週刊誌っすよ」
「週刊誌?…あぁ、載るって言ってたけどな」
「暇なんすかね、載せる方も」
「かもな。」
カオルは売れだしてから週刊誌に載せられたのは、竹崎とご飯に行った・竹崎の家を行き来している、それだけだ。
ただ二人が仲がいいということしか撮られない。
というのも、カオルの行動範囲が狭いのでこれしか撮れない。
竹崎には、カオルの熱愛情報は無いのかと聞かれることもあったが、「知らねぇし、んなもん聞いたこともねぇし見たこともねぇよ」と返す。
記者も何となく納得してしまうほど、カオルには何もない。
皆は、二人がこんな関係とは知らずに。
「竹崎さん、お疲れ様でーす」
「おうお疲れ。」
スタジオの後片付けも終わり、竹崎はカメラ倉庫へ行こうとした。
「……あっ」
癖でポケットに手を入れると、リモコンが出てきた。
「えっ!?」
最大レベルになっていた。
「えっ…、えっちょっ…ど、どうするどうする…」
廊下で一人、竹崎は慌てふためいた。
カオルが息を切らして、顔が紅潮したのはこれのせいだった。
竹崎はボタンを押したつもりは無かったが、カメラを動かした衝動で押してしまっていたようだ。
竹崎は走ってカオルの楽屋へ飛び込んだ。
「お、おい…!!!」
そこには息を切らしながら自慰行為をするカオル。
「……はぁっ…ご主人様ぁっ…♡」
会えて嬉しそうだ。
竹崎は本気で謝ろうとした気持ちが一気に萎えた。
「ご主人様ぁっ、本当に…♡最高です…♡カメラに撮られながら、勃起しないかとかイっちゃわないかとか、ドキドキして…♡♡気持ちよかったです…♡」
「……」
竹崎は黙ってリモコンを返した。
「…ご主人様?」
「………こうするつもりは、無かった。」
「えっ?」
「…俺が動いた時に、リモコンのボタンが自然と押されてた。」
「……」
「故意じゃないんだ。すまなかった」
「えっ、ご主人様!」
楽屋を去ろうとする竹崎の目の前に、カオルが滑り込んできた。
「ご主人様…!!」
「…な、なんだよ……」
「行かないで…ください…」
また、子犬みたいに足にしがみついてきた。
「は、はぁ?」
「……ご主人様に、虐められたい…です…。ちゃんと、ご主人様がちゃんと…」
「……収録中とか仕事中には、絶対やめろ。」
「はい…!」
「…まぁ、今回は俺が悪かった。」
「ご主人様は何も悪くありません!…僕が、我慢出来なかったから……」
「…はぁ。」
奴隷の意識高すぎてどうすんだ、そのストイックさ、他で活かせよ。
「…ほら、今日はもう終わりだろ?」
「はい。」
「帰るぞ」
「……はい!!!」
カオルは喜んで支度した。
「あれ、カオル君、大丈夫なの?」
楽屋を出てすぐ会ったのは、カオルのマネージャー、鈴木渉。
「大丈夫です!」
「そう、なら良かった。あっ竹崎さんも。お疲れ様です」
「どうも。」
「カオル君、今日タクシーとか……」
「要らないですよ、俺が送るんで。」
「あっ…そうですか。分かりました。宜しくお願いします。」
「うす……」
「鈴木くん、またね」
「はい、また明日。竹崎さんも、また宜しくお願いします。」
「……はい」
鈴木はエレベーターまで送ってくれた。
「ご主人様…♡♡」
「やめろよ」
カオルは二人きりになったとたん、キャラが豹変する。竹崎はこの豹変ぶりが少し怖い。
竹崎の愛車にカオルも乗った。
黙って竹崎は自宅にカオルを連れてきた。
「……」
駐車場で窓を覗くカオルを見て言った。
「…なんだ、自分の家に帰りたかったか?」
「い、いえ…!!!」
帰るぞ、と言われて、連れてこられた竹崎の家。
カオルは尻尾を振って喜んだ。
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