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第6話

数日後、カオルの退院がニュースに取り上げられていた。 「…ふぅん……。」 その頃、竹崎は地方ロケの撮影に来ていた。 ホテルのベッドに寝転がり、スマホでネットニュースを見ていた。 「はぁーあ!」 大きなため息をわざとついて、大の字になった。 あれからカオルには会えていなかった。仕事が終わる頃には病院の面会時間が過ぎており、行くにも行けなかった。 カオルからの連絡は何度か来ていた。 〝ご主人様、ちゃんと食べれてますか?〟 まるで母親みたいな連絡ばかりだった。 〝食ってるよ。人の心配ばっかしてないで、自分を心配してくれ〟 竹崎も、その息子みたいな返事ばかりで。 「………。」 ほぼ毎日のようにしていたセックスだって、ぴたりと無くなって何だかそれに慣れない。 「…そうだ……」 竹崎がふと思い出して、SNSアプリを開いた。 アカウントは裏垢に切り替えて、"フォロー中のアカウント" にタップした。 アカウント名は、〝ケイ〟。 何故ケイなのかは、Kaoruの K をケイと読んだものだと、本人が言っていたような。 【Mな裏垢男子。出会えません!】 自己紹介文にはそう書かれているが、このアカウントは非公開。というのも、元々は公開されていたものだった。 非公開に設定されたのは、カオルと竹崎がこの関係になる前の話。 その当時、カオルはまだ売れていなかった。事務所に所属はしていたものの、ドラマや映画のオーディションには落ち続けて悩んでいた時だった。 一方で竹崎はテレビ局でカメラマンをしながら、風景などの写真を撮ってはSNSに上げる日々だった。竹崎の撮った風景は写真集にもなったことが一度あり、売り上げはそこそこ。ファンが買ってくれたくらいにして。 そして竹崎は風景の写真に飽きたので、人を撮りたいと思い始めた。 何かいい案は無いかと、情報収集しようとネットを漁っていた。ウェブ検索からSNSに行き、気付いたら何故かエロ投稿まで度々出てきた。 「…うわ…。そんなつもりは…、」 竹崎はエロに対して少し軽蔑していた部分があった。しかし、徐々に色気というものに惹かれていった。 「…悪くないかも。」 竹崎はSNSに溢れるエロ投稿を漁った。別に、変な目的は無い。何故、エロ投稿ってこんなにライクの数が多いのか、それほど人々が無意識に惹かれるんだな、野生の本能なのかな、不思議だな、と考えながらスクロールしていった。 「だめだ、キリがない…」 竹崎は呟いて、まだスクロールを続けた。 そして、ある投稿が目に止まった。 【ケイ💜裏垢男子(ネコ専)🔞】 【遂にピストンマシンを買った🥺気持ち良すぎて潮吹きしちゃった…🫣💦】 この一文と一緒に投稿されていた一分程の動画。 横向きに置かれたピストンマシーンの先に、四つん這いになった男。顔は画角から外れて、ギリギリ見えない。 白のワイシャツ1つだけ着た男が、明るい窓の近くで機械に突かれて喘いでいた。捲れたシャツから見える尻と、長い綺麗な足は色っぽかった。 〝あぁ…!すっご…ぃ…奥まで…気持ちいい…あぁっ…あぁっ…♡あぁ…いく…っ!〟 確かに男の声だけど、女みたいに中をズポズポ突かれて気持ちよさそうに喘いでいた。四つん這いの足の間から垣間見えるモノは、射精していた。 それは動画の半分くらいで、竹崎は見入ってしまった。 もう半分になると画角が変わり、彼は仰向けで足を広げていた。機械はさっきよりも激しく動き出して、彼の腹の中を強く突く。自分の手でモノをしごいては、下品に声を上げていた。 〝あぁ…!イく…!イく…!あぁんっ!イっ…くぅ…あぁ……イくぅぅぅ!!!〟 彼は見事に潮を吹いた。足を広げ、腰はビクビクと動いていた。 「……っ。」 竹崎は唾を飲み込んだ。ゲイでもない自分が、男相手に興奮してはいけないような気がしていた。 でも、身体は正直なもので。 「なんで男相手に勃ってんだよ……」 誰か分からない男の自慰行為で興奮して、勃起するんて。 彼のアカウントに飛んで、投稿を遡って動画を見続けた。こんなに無様な自慰行為やリスナーと擬似セックスも。ケイは自身のリスナーを〝ご主人様〟と呼んでいた。 【今日は🔞配信するよ❤️ご主人様、見に来てね🫣💕︎】 ケイは時々、別サイトで夜に配信をする。 〝…ご主人様、こんばんは♡…見に来てくれてありがとうございます…♡♡わぁ、早速スパチャもくれるんですか、ありがとうございます♡……いっぱい御奉仕させてください♡〟 その夜の配信は、黒の総レースの下着姿。 〝…ん?この下着ですか?……えへへ、ご主人様のために買ったんですよ。どうですか?似合います?……えへへ、似合う?嬉しい…♡〟 リスナーのコメントを読み上げたら、すぐにエロ配信に切り替わる。 〝…ご主人様ぁっ、孕ませて…ください…♡…ご主人様!僕のこと、もっとめちゃくちゃにしてください…〟 そんな台詞を言いながら、ディルドを挿入した尻を不特定多数のリスナーに見せつける。 「…やば…」 これには、流石に竹崎も興奮した。男の自慰行為で、勃起したのをしごいていく。ケイの配信を見ながらやると、彼を犯してる気分になる。これがリスナーを虜にするんだろうな。 〝あぁんっ…ご主人様……!んぅ……ご主人様のちんぽで…おかしくなっちゃう……♡あぁ…イく、イく……♡イかせてください…ご主人様…♡♡…あぁっ!イく……!!〟 「…はぁ……」 それから竹崎は彼の生配信や投稿をオカズにした。初めてだった。男で興奮して、オナニーまでするなんて。 顔出しのしていない彼。特徴的だったのは、舌とほくろ。舌は先が尖り、ほくろは鎖骨や尻、身体の様々な箇所に点在していた。それに、何処か男らしく見えるギャランドゥも印象的だった。 「エロいな……この子。」 男だけど男じゃない、みたいな。何て表現すればいいのか分からない。男にある女性的なエロさっていうのかな。分からないけど。 それから竹崎は、彼のアカウントを常にチェックするようになっていた。初めは写真のアイデアとして見ていたが、徐々に性的な目で見てしまうようになっていた。 そしてある日、竹崎に珍しく写真の仕事依頼が来た。 「モデルの写真集……?よっしゃ……!」 こんなにも無名な写真家でいいのかと少し思いながらも引き受けた。被写体のモデルも無名だった。 あるメンズ雑誌の専属モデルで、ドラマでは殆ど脇役やエキストラばかり。彼の名前は、藤野カオル。 後日、顔合わせがてら打ち合わせをしたいと言われ、カオルと会った。これが、竹崎とカオルの出会いだ。 「初めまして。藤野カオルです。」 「どうも。…竹崎龍一です。」 カオルは凄く綺麗な顔立ちをしていた。すらりとしたスタイルで、身長は竹崎より数センチ高い。何より、彼の美貌に竹崎は圧倒された。 「あの…写真は俺でいいんですか。」 「はい。マネージャーの鈴木さんが竹崎さんのファンなんですよ。それで、僕も撮って欲しいなって…」 「あぁ…そうなんすね…」 カオルのマネージャーの鈴木が、竹崎のファンだったらしい。大分物好きなんだな、いや、もしかしたら見る目があるのかもしれない、と竹崎は得意気に にやついた。 「……」 首の開いた服を着ていたカオルの鎖骨が目に入った。そこに、ほくろがあった。ふぅん、と思うくらいにしていたが、まさかカオルが【ケイ】だとは思わなかった。 撮影では、彼の自慢のスタイルを活かしたいとのことで、服を濡らして透かしたり、脱がせたり。そこで、徐々に【カオル】と【ケイ】と結びついていった。 竹崎はケイの投稿を何度も見返した。よく見ていなかった、鎖骨以外のほくろ。腹や背中、腕に足……。 「本当かな……」 竹崎は半信半疑になっていった。身体はどう見ても、カオル=ケイだが、礼儀正しくてこんなに好青年なカオルが、無様に性癖をさらけ出すようなケイには結びつかなかった。 「…まだ確定するには早いか…。顔出しもしてねぇし分かんねぇよな」 そして後日、撮影のために沖縄へカオル達と共に行った時だった。 夜、宿泊先の部屋にて休んでいた竹崎は、スマホでまた投稿を漁っていた。 「…こんなに近くにいるもんなのか?…」 カオルがケイなのではないかとどうしても気になるので、SNSアプリでケイの投稿を見ようとした。 「新着投稿……」 ケイが新しく投稿したようだ。 【浴衣っていいよね💕︎】 布団に座り込んだケイが上から胸元を撮るようにして、尖った舌先を出した口元を写した自撮り。浴衣のはだけた胸元と、布団の上に散らかるアダルトグッズたち。 「………!」 竹崎は確信した。 尖った舌先だけじゃない。旅館の浴衣で確信した。 竹崎はすぐに立ち上がり、部屋を飛び出した。同じ階にあるカオルの部屋を強くノックした。 「…あっ、竹崎さん。どうされましたか」 「ちょっとごめん」 「えっ!?」 竹崎は無理やり部屋に入り込んだ。カオルは慌てて竹崎を止めようとしたが、それを振り払って入った。 「ちょ!ちょっと待ってください!待って!」 「……やっぱり。」 「…いや、あの!これは…!!!」 布団の上には、投稿と同じアダルトグッズが散らかっていた。カオルは必死に弁明しようとしていたが、そんなのどうでもよかった。 「……カオル君…、いや…ケイ君…」 「えっ…?」 「これ、カオル君だよね?」 竹崎はケイのアカウント画面を見せつけた。 「えっ……えっと…」 驚いているような、焦っているような表情にそそられた。可愛い子・好きな子は虐めたくなるタイプの竹崎は、カオルをからかおうとした。 「…これ、君のアカウントだよね?」 「………はい…。」 カオルは顔を赤くして、頷いた。 「やっぱり……。」 「竹崎さん、なんで…分かったんですか」 「ん、んーと…、ほくろ…かな。」 「……ほくろ?」 「身体にあるほくろ…」 カオルが唾を飲み込んだのを竹崎は見ていた。 これじゃカオルのエロ投稿をめちゃくちゃ見てる奴にじゃないかと、竹崎はヤベッと呟いた。 「……僕の…見てくれていたんですか?」 カオルは蕩けたような表情で竹崎に近寄った。 「えっ!いや……その…!写真の!案を探してたって言うか!!たまたま!本当に!たまたま!」 怪しすぎるだろ。竹崎は焦り散らかしていた。 「嬉しい……♡」 「お……、え?」 カオルは竹崎に抱きついた。なんだか、悪いことをしている気分になった。 「竹崎さんが僕のご主人様だなんて…♡」 「いや、あの……」 竹崎は諦めた。カオルは竹崎に抱きついて、ご主人様 、ご主人様 と何度も言っていた。 「嬉しい…。」 「あぁいや…その…。…君がこんなことしてるって、鈴木さんは知ってるのか?」 「知らないです。誰にも、言ってません。」 「そりゃそうか。…言ったら終わりだもんな。」 カオルは、ただの綺麗で良い子 ではなかった。 こんな完璧そうな子が、なんと下品に無様に、痴態を晒してるなんて。 でも一度、この目で見てみたいと思ってしまった。 「…こんなにエロいことをカオル君がしてるなんて、鈴木さんとか事務所の人が知ったらどうするんだろうなぁ?」 「……それは…」 「俺が告げ口しても?」 「…だめ……、言わないで…」 「…言わないで、ください、だろ?」 ちょっと面白がって竹崎はそう言ってみた。それを聞いたカオルは嬉しそうに笑った。まるで、瞳をハートの形にして、主の前でしっぽを振る犬のようだった。 「…言わないでください…♡ご主人様…♡なんでもします……♡」 「ふぅん…」 今まで見ていたケイが目の前に。それにすげー美人。これにそそられない男がどこにいるんだ。 竹崎は恋愛対象にすらならなかったはずの男に、ものすごく興奮していた。 「ご主人様…♡」 カオルはゆっくり膝を着いて、竹崎の股間に手を触れた。 「……待て、」 「ん…」 犬のしつけをするように、手を出した。 そして、着ていた浴衣の帯を解き、下着を下げた。 目の前に露になったペニスを目の前に、目を輝かせては尻尾を激しく振るカオル。 「……ご主人様…!」 「……よし」 「んぅ……♡」 合図とともに、カオルは肉棒にしゃぶりついた。 食べるものじゃないのに、美味しそうと思ってしまうくらいに、良い表情でしゃぶっていた。 「…ぁ…すっご……」 とにかく、上手かった。 何故か知らないけど、めちゃくちゃに気持ち良かった。唾でたっぷり濡らされて、強く吸い込まれる。ただそれを繰り返されてるだけなのに、気持ち良い。 「…あぁ…イく…」 フェラをされ続けて、少しもしない間に射精した。 「ん…♡♡えへへ……♡」 カオルは口内に出された精液を、舌の上に乗せて見せてきた。 「んんぅ♡おいひい…♡♡」 綺麗な首元にある喉仏が上がったのが見えた。 とろんと溶けた表情で、竹崎を見上げてくる。 「……ん…」 「ご主人様…欲しいです…」 「何をだ?」 「……ご主人様の…おちんぽ…♡」 撮影現場では美青年な表情を見せていたはずのカオルが、男のモノを欲しがっている。ギャップが激しすぎる彼を目の前に、竹崎はどこかにある本能を擽られるような気がした。 「あっ、ご主人様…♡」 「ほら、手出せ。」 解いた帯をカオルの両手首に巻いて、布団に押し倒した。 「これ使って、一人で遊んでたのか?」 そう言って手に取ったのは、既にローションまみれになっていた玩具。 「……はい…♡」 「ふぅん……。遊びたいか?」 「はい…!遊びたいです……♡♡ご主人様…!」 「……そうか…」 「……?……んぅ!」 カオルの帯を解いて、口を塞いだ。 「…隣の部屋にも人がいるんだそ?…声出したら、遊ぶの止めるからな?」 「……ふぁい…♡」 それから竹崎はカオルをいじめて遊んだ。 〝あぁんっ…ごしゅじんさま……♡♡もっと…もっと…くださいぃ…っ!ぼくの…なか、ごしゅじんさまで…いっぱいにして……♡〟 「……。」 カオルの一番可愛い瞬間、一番きれいな瞬間を見た気がした。欲望のままに、快感に溺れていくカオルの姿が一番きれいだと竹崎はこの時知った。 彼の美しさに惚れた竹崎はそれを写し、写真集を完成させた。カオルの美しさをとらえた写真集は世間の話題を呼び、カオルは国民的な俳優・モデルとなった。 そしてその裏で、カオルは竹崎を〝ご主人様〟と呼ぶようになった。公開していた裏垢は非公開にし、〝引退〟と称して配信もぴたりとしなくなった……。 都会の大きな看板や有名雑誌の表紙にも、載るようになったカオル。傷一つ、付けたくない。 それなのに、カオル本人は刺激を求め続ける。 それには応えたくない。応えられない。 「お前が売れてなかったらなぁ。」 竹崎は今となっては懐かしく感じる【ケイ】の投稿を見て呟いた。

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