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第9話
「あぅ…あぁっ……んあっ…!!」
ラブホテルの部屋の一角。大きなベッドを囲むようにして鏡が張り巡らされている。
「…おら、目逸らすな…!」
「んぅ……!」
竹崎はカオルの上半身と両腕を器用に縄で縛って、身動きが取れないカオルを後ろから攻めていた。
「自分がどれだけ下品なのか、自分の目で見てみろ、」
「…ん…ぅ…♡」
カオルの顎を掴んで、指を咥えさせた。口に入れた人差し指と中指に、唾液と舌の柔らかい感覚がある。
「…はぁ…はぁ……っ…!!」
「んぅ…んん…んぅ...///」
静かな部屋に肉がぶつかり合う音と、荒い呼吸だけが響き渡る。
「……本当に犬みてぇだな」
「へへ…♡」
唾液をだらだらと垂れさせて、ご主人様の指を咥える。前で縛られた両腕で身体を支えて、四つん這いになっては下の口で棒を咥え込む。
お気に入りの首輪も付けて、上機嫌だ。
「…あぁ、イく…っ」
「んっ……あぅ…!んぅ…!!」
射精しそうになった瞬間に、カオルの身体をひっくり返して口に精液を流し込んだ。
「はぁ…はぁ……」
「へへ…ご主人様…♡」
口の周りについた精液を舐めて、嬉しそうに笑ってみせた。
「……はぁ」
「もう…終わりですか?」
今年で40歳の竹崎の体力は、そこまで長くは続かない。本当は1回やるだけでも、キツいまでもある。
「…誰が終わるって言った」
今日だけは、応えてあげたかった。
「ご主人様…♡」
「…ご主人様ぁっ……!もう…無理…です……うぅっ!!あぁ…あぁっ…ああぁっ!!」
部屋の奥にあった、SMプレイ用の椅子。
両手両足をベルトで縛れる椅子で、座る部分が開いている。つまり、下から遊んであげられる。
竹崎は下からバイブの玩具を突っ込んで遊んであげた。そして、乳首にはローターを貼り付け、前はオナホで可愛がる。
「ご主人様、ご主人様ぁっ……!」
カオルは何度も射精していた。
身体を震わせて、唾液を垂れ流して、叫ぶほどに喘いでいた。
「…泣くほど気持ちいいのか?ん?」
「き、きもちいい……です…♡♡」
カオルの頬に流れた涙に、優しくキスをした。
「…そのすげぇ下品な姿、撮ってやろうな」
「ご主人様…っ」
竹崎は自身が持ち歩くカメラを取り出して、体液に塗れて泣きながら喘ぐカオルを写真に写した。
「…景色が良いよ」
「えっ……?」
「似合ってるな」
「……?」
「なんでもねぇよ、もう終わりだ!」
「終わり、ですか?」
「このまま、死なれたら困る。」
そう言って、ようやくカオルの体を解放した。
「ご主人様、」
「…なんだよ、まだ足りねぇのか?」
「…ご主人様…えっと…」
「ん?」
カオルはよろよろと足をふらつかせながら、自身のバッグの中を漁った。
「…こ、これ…」
「…鞭?」
出されたのは、先端が枝分かれしているバラ鞭。
「…やって…ください…♡♡」
「はぁ…やり方わかんねぇよ……」
「振り下ろすだけで良いんです。」
「…こうか…?」
ただ真下に振り下ろすだけで、風を切る音がした。
「……はぁ…っ♡」
それを見ていたカオルは、自分が鞭で叩かれるのを想像した。
「ほら、こっち来いクソ犬。」
「はい…♡♡」
カオルの首輪をひっぱって、ベッドに連れてきた。また四つん這いにさせて、今回は目隠しをさせた。
「…はぁ…、どうなっても知らねぇからな」
「……いっぱい…おしおきしてください…♡」
「何のお仕置だ?」
「……悪い子…だから…」
「そうか、悪い子なのか…」
「はい…、だから……!」
「…お仕置だ、」
「はぅっ!!♡♡」
真っ白の小さな尻に、鞭を振り下ろした。尻は分かりやすく赤くなった。
「……」
鞭の扱い方が分からない竹崎は、やりすぎたか?と思い、躊躇してしまった。
「…ご主人様……もっと…おしおき…して…♡」
「……はぁ、本当に欲しがりだな」
「んぅ…!!♡♡」
少し力を弱めて、何度か鞭で尻を叩いた。
「いい音するな」
「…えへへ…」
尻を叩く度に、べちんと良い音がする。
「…まだ必要か?」
「…もっと!もっといじめてください……♡」
カオルの欲しがるままに、鞭を振り下ろした。
何度も、何度も……。
「……っ」
「…んぅ…!!!もっと、もっと…強く!」
躊躇わないでほしいと願われても、赤くなってしまった尻を見ると竹崎は手を止めた。
「………」
「ご主人様…?」
「…もうお終いだ。」
「えっ……?」
「おっさんが疲れたんだよ」
竹崎は笑った。
カオルに付けていた目隠しや縄は全て外した。
「……ご主人様」
「…今回はもう勘弁してくれよ。な?」
カオルの頭をがしがしと撫でた。
「……はい」
カオルが微笑んで頷いた。
「悪ぃな」
「いえ。」
そんなカオルだって疲れてる。何回射精したのか、もう分からない。ベッドの上で仰向けに寝転んだ。
「……お前も疲れたんだろ?」
「…そうでもないですよ。」
「……」
「えっ?」
竹崎はカオルの頭を撫でた。じっと、彼の整った顔を見つめて、頬に触れた。
手入れされた肌はすごく綺麗で、鼻筋の通った羨ましいくらいの美貌。
思わず、キスしたいと思った。
「………悪ぃ」
「えっ」
竹崎はすぐに身体を離し、カオルに背を向けて煙草に火をつけた。
「…ご主人様。」
「ん?」
「ずっと、こうしていたい。」
「……」
カオルは起き上がって、竹崎の背中に抱きついた。
「……ご主人様。」
「…はぁ…」
ふと、ベッドの周りに張り巡らされた鏡に映る自分を見た。
どう見ても、ただのおじさん。
身体はだらしないし、なんの取り柄もない。
そんな彼の背中に身体を寄せるのは、国民的俳優、高学歴のスーパーモデル。
完璧中の完璧だ。
「……」
竹崎は気付いていた。
カオルが何故、わざわざ仙台に竹崎を連れて実家に帰ったのか。
彼自身、実家に顔を出したかったというのは本当だったようだが、カオルは竹崎と一緒に実家に行きたかったんじゃない。両親に竹崎を会わせたかったからでもない。
ただ、ついてきて欲しかっただけ。
一人で地元に帰るのが怖かっただけ。
こんなに完璧で、非の打ち所がないカオル。
周囲や両親の期待を大きく上回り続けたカオルが、唯一、期待に応えられなかったこと。
「ご主人様…♡」
それは、性のこと。
男に生まれて、男を好きになる性的指向。
性癖は歪んで、男に奴隷として扱われて尻を叩かれることにも快楽すら感じてしまう。
「……」
カオルが不憫でならない。
「…カオル。」
「?」
竹崎は煙草を灰皿に置いた。
カオルの体を引き寄せて、優しくキスをした。
「……ご主人様?」
「…これは…、竹崎さん、としてだ。」
「どういうことですか?」
「…なんでもない。」
「えっ?」
「…シャワー浴びてくる。すぐ戻る。」
「……」
ひとり取り残されたカオルは、鏡の前に立った。
カオルの名前が刻まれた首輪をつけて、首元にキスマーク。尻は赤くなり、ひりひりしている。
「…これじゃないの。」
カオルは呟いた。
「…僕が欲しいのは、これじゃない。」
「…永遠に消えない、ご主人様からの印がほしいの。」
「僕の体に、刻んで欲しいのに。」
「……?」
カオルの目に入ったのは、竹崎が吸っていた火の消しきれていない短い紙煙草。
「……」
先端には少しの火がついていて、細い煙が真上にゆらゆらと上がっている。
カオルはその煙草に手を伸ばした。
「…悪ぃ、遅くなった…」
竹崎がシャワーを終えてベッドに戻ると、カオルは寝ていた。
「……寝た、か。」
カオルの寝顔はいつ見ても綺麗だ。というより、綺麗な人はいつどこから見ても綺麗だ。
ふわふわとした黒髪を撫でた。
「首輪付けたまま寝るなよ、」
お気に入りの首輪を付けたまま寝ていたので、外してあげた。
「……ん?」
ベッドサイドのテーブルに首輪を置こうとしたとき、ゴミ箱が目に入った。
「…絆創膏?…怪我したのか?」
絆創膏を貼ったであろうゴミが入っていた。
さっきまで、絆創膏を貼るような怪我は無かったはず。
「まさか俺、やっちゃったのか?」
竹崎は自分が傷付けてしまったのでは無いかと不安になった。
力加減が分からずに鞭でやってしまっただろうか、爪で引っ掻いてしまっただろうか。
あれこれと考えながら、そっと布団を捲り、カオルの身体を確認した。
「……ここ…か?」
絆創膏が貼ってあったのは、カオルの内腿。鼠径部に近い所だったので、気付きにくい。
「…なんで…?」
「…ん…?」
カオルが起きてしまった。
「…おい、これなんだ?」
「えっ?」
「…ここだよ、ここの傷。何したんだ?」
「……いえ。引っ掻いちゃって。」
「痒くて?」
「はい。」
「…あぁ、そう」
竹崎は頷いたが、どうも信じられなかった。
「…シャワー、浴びてきますね。」
「……おう」
「……ふぅ」
竹崎は煙草を取り出し、火をつけた。
「……」
シャワー浴びる前に吸ったはずの煙草。灰皿にあった1本が、短くくしゃくしゃになって潰れていた。
「……ん」
まさか。
「…カオル、」
竹崎はまだ長い煙草の火を消して、シャワー室へ走った。
「おい!」
「わっ?!」
扉を思い切り開けて、カオルの足を掴んだ。
「足出せ!」
「えっ、ちょっと!」
カオルの足を無理やり掴んで、絆創膏を剥がした。
「……お前。」
「…」
皮膚が赤くなって、可哀想なくらいにぐじゅぐじゅしている、丸い跡。
「…根性焼きか」
「……やめてください」
「なんでこんなことした!!?」
竹崎は声を荒らげて、カオルの肩を掴んだ。
「…っ」
「お前、分かってんのか?この傷跡、消えねぇんだぞ?一生、消えねぇんだぞ?!」
「……」
涙目になって、眉を八の字にするカオル。
竹崎は怒りを通り過ぎて、悲しくなった。
「……はぁ、」
「…」
「言ってるだろ、お前の商売道具、傷付けんじゃねぇって。」
「……ご主人様。」
「…?」
「…カオルが好きですか?」
「は?」
「カオルが好き?…それとも、薫が好き?」
「…は?何言ってんだ?」
「…モデルで、俳優で、なんでも出来る完璧なカオルが好きですか?…それとも、スケベで下品で、ご主人様に尻叩かれて喜ぶような薫が好きですか?」
「……?」
カオルからの突然の質問に、竹崎は眉間に皺を寄せた。
「…表向きのカオルが好きなんでしょう…?」
「それとこれとは違うだろ!」
「僕は、ご主人様からの永遠の印が欲しい。」
「…は?」
「本当は、タトゥーだって入れたい。ご主人様の名前でもいい。ピアスだって開けたい。耳でも、鼻でも舌でも、どこでもいい。ただ、カオルがご主人様のものであることを、痛み一緒に、この身体に刻んで欲しい。」
「…だからってなんで根性焼きなんだ?!こんなこと、やるもんじゃねぇだろ」
「…だって…何も、やってくれないから。」
「……」
カオルの目から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出した。
「分かってますよ、ただ僕の性癖に付き合ってくれていたことも。ご主人様に本当は、そんな趣味無いことも、分かってる。」
「……」
「…ただ、嬉しかったから。ただ、ご主人様しか居ないから…。竹崎さんしか、いないから……!!」
声を震わせて訴えるカオルの姿を見て、竹崎は何とも言えない気持ちになった。
「……」
「…ごめんなさい、ご主人様。」
「?」
「ご主人様の言うことを聞けないクソ犬で。」
「……」
「…こうやって、怒ってくれるのも嬉しい。」
「……」
「本当ですよ」
カオルは泣きながら笑った。
シャワーの湯なのか、涙なのか、もう分からない。
内腿に刻まれた、カオルの想い。
「…ご主人様」
すると、竹崎に優しくキスをした。
「……」
「…好き。好きなんです、竹崎さん。」
「……」
「あなたになら、めちゃくちゃにされたい。」
竹崎はじっとカオルを見つめた。
シャワーで濡れる黒髪と、綺麗な顔立ち。涙で潤んだ綺麗な黒目。化粧なんて要らないくらいに綺麗な肌。
「…ご主人様」
「……はぁ」
「んぅ…!!」
カオルの項を掴んで、キスをした。
多分、今まで一番甘くて熱いキスだったと思う。
「分かったよ、薫。」
「…?」
シャワー室で、また激しいセックスをした。
ご主人様と奴隷じゃない。
竹崎龍一と藤野薫として。
「…竹崎さん…!」
「…薫…!」
お互いの名前を呼び合って、セックスしたのは初めてだった。
「…竹崎さん、」
「ん」
「…やっぱり物足りないや」
「はっ?…なんだ、あんだけやっておいて、まだ叩かれたいとか言うのか??…たまには、普通のセックスさせろ」
「…えへへ」
竹崎は薫の頬に流れる涙にキスをした。
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