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第3話 蓉

快適に過ごしていたひとり暮らしは、一瞬で終了したように感じた。 学生時代から付き合いのある友人の弟であり、普段から非常に仲が良く、つるんで遊んでいる奴。 そんな奴が、突然部屋に来て、勝手に上がり込み、部屋の中を隅から隅まで舐めるように見ていた。 その結果、そいつに蓉の趣味であるオナニーグッズを発見されてしまった。しかも使いかけ。 不貞腐れた蓉の機嫌を取るように、海斗が必死になっている。 「ごめん、先輩。俺は何とも思わないよ?つうかさ、これ先輩が使ってるものだよね?誰かに使わせたとか、誰かの使いかけじゃないよね?」 「うるせぇ!俺のだ!」 ヤケになって答えてやった。このバイブはお、れ、の、だ!と。 「よかった〜。誰か他の人のじゃなくて。それにひとり暮らしだね?誰かと一緒に暮らしてるかと思って、焦ったよ」 「はあ?お前、アホか?」 何が「よかった〜」…だよ。と言いながら、蓉は深いため息をついた。 快適な生活の中で、性癖がバレてしまうとは思わなかった。オナニーをしているだけならまだしも、健康男子一般的基準と比べてみると、蓉のオナニーは後ろの穴にバイブを突っ込んでいるのでハードだ。すげえ性癖だなと感じただろう。 しかも知られたのは非常に身近な人間だ。そんな奴に知られたとなると、恥ずかしくて落ち込む。だが恥ずかしがっていると知られたくないので、蓉はワザと不貞腐れた態度を取っている。 「先輩、ご飯は?食べてる?」 「えっ?あ、ああ…食べてる。えーっと、カツ丼とのり弁とカップ麺と…」 この状況でご飯の話を振られたことに驚き、一瞬考えてから答えた。 「コンビニ?弁当屋さん?」 「うん、どっちも。俺、料理出来ないし」 海斗は蓉が大食いだということを知っている。だから、食べてるか?と、聞いてきたのだろう。だけど海斗は何故か眉間に皺を寄せていた。 「コンビニ弁当ばっかりじゃ心配だよ。温めるのも所詮レンジでチンでしょ?俺さ、本当に隣に引っ越して来たんだ。さっき、寸胴鍋に目一杯カレー作ったからさ、食べにおいでよ。だけど、その前にここ、片付けた方がいいからさ、俺が片付けするよ?いい?」 そう言って海斗はベッドに置いてあったバイブを拾い上げる。 「うわああああ!だから!やめろって!それに触るなよ。捨てるなって!」 「あははは、捨てないよ。先輩のコレクションでしょ?片付けるだけだから。ね?」 「うるせぇな!いいって!」 海斗が手にしてるバイブを蓉が奪い取った。剥ぎ取るような感じで取ったから、一瞬バイブのスイッチがONになり、ウィンッと動き出した。気まずい空気が流れる。 「そう?じゃあ…俺は弁当のゴミを片付けするよ?ゴミ出しするから。俺がやってる間に先輩はそのコレクション片付けなよ」 ふんっと蓉は言ってやったが、海斗の言う通りにコレクションであるバイブを丁寧に片付け始めた。 海斗がてきぱきとゴミ出しをしてくれたおかげで、部屋がさっぱりと綺麗になった。二人で片付けをしたからあっという間に終わる。 「じゃあ、ご飯食べる?シャワー浴びてから来るでしょ?隣だから、鍵は開けておくよ。待ってるね」 イケメンで優しいと評判の会社のエースが、颯爽と帰って行く後ろ姿を、蓉は「チッ」と、舌打ちをしながら見ていた。 シャワーを浴びてスッキリし、隣に越してきたという海斗の部屋に入り込む。 玄関には紺色のバスケットシューズが脱ぎ捨てられていた。これって限定モデルのスニーカーじゃなかったっけと、蓉は少し屈んでそれを見つめた。限定モデルだから値段もそこそこするはず。それなのに踵を踏んで履いてるなんて、海斗を生意気な奴だと思った。 海斗の部屋の間取りは蓉の部屋と違っていた。ワンルームに変わりはないが、蓉の部屋に比べて少し広い。同じマンションでも間取りが違うもんだなと、キョロキョロとする。 蓉の部屋は角部屋であり、隣は海斗の部屋だけだ。キッチンから部屋まで区切りは無いが、海斗の部屋には、キッチンと部屋の間にドアがあり区切りが付いている。また、ベッドが奥まった場所にすっぽりと配置されているため、部屋全体が広く見え、使い勝手がいいように思える。 それに、海斗はインテリアのセンスがよかった。ソファで部屋の中にも仕切りを作り、ワンルームでもお手本のような、おしゃれな空間になっている。 自分の部屋とは全く違うと、蓉は辺りを見渡していた。それに、本当に隣に引っ越してきたんだなとも思っていた。 「先輩、そこ座って。カレーと唐揚げもあるよ。それと、サラダでしょ、パンも買ってあるし、あと何かリクエストある?」 「すげぇ…作ったの?お前、料理出来るんだな。すごいな…唐揚げって揚げたの?揚げたて食べれるの?」 海斗は料理上手だった。そういえば以前、陸翔に聞いたことがある。食べるのも作るのも好きだと言っているので、大きな鍋にいっぱいカレーが作られていた。 「唐揚げは今から追加で揚げるから、どんどん食べていいよ。俺も腹減ったな」 機嫌良く鼻歌を歌いながら、海斗は唐揚げを揚げている。 カレーってどれだけあっても食べれてしまう。しかも海斗のカレーは美味い。今まで食べたカレーの中でも、かなり上位にくるほど美味かった。 「海斗、俺がここに引っ越したって知ってたんだろ?何でわざわざ隣に引っ越してきたんだよ」 「あはは、バレた?うん、知ってたよ。まあ、いいじゃん、俺が隣に引っ越して来たのはさ。それより、先輩、大丈夫?自宅待機って言われたでしょ?」 やっぱり海斗は知っている。 海斗はハッキリ自宅待機と言ってきていた。 「あれ?やっぱ、知ってたか…」 「知ってるに決まってるじゃん!なんで、自宅待機って受け入れたの?先輩は関係ないでしょ!陸翔に言われた?」 「ううーん…」 蓉の自宅待機は、面倒くさい理由がてんこ盛りに重なっていた。

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