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第7話 蓉

「あー、腹減った…」 「ご飯あるよ?シャワー浴びてから来る?俺は先に行ってるから鍵かけて来てね」 『柔軟に対応する』とは 融通や機転を利かせて、その場合に応じて対応することができること。また色々な変化にも適切な処置ができること。 社会人になり『柔軟に対応する』と、何度その言葉を聞いたことか。 今の海斗を見ていると、その言葉が真っ先に浮かんでくる。 隣に引っ越してきましたと、しれっと挨拶されたのが始まりで、その後は、あれあれっという間に食事、睡眠、更には性欲まで海斗に管理され、いずれも全て欲求を満たされている。 臨機応変に物事を進めることが出来るとは、良いような言い方だが、まさに海斗はその文字通りに進めていた。 どんなハプニングでも全て柔軟に受け取り、イレギュラーなことでも臨機応変に対応している。仕事でも営業のエースと言われるくらいだ、同じようにそつなくこなし、手際がいいのだろうということがわかる。 最近の二人のルーティンは、朝早く蓉の部屋に移動してセックスをする。その後、それぞれの部屋でシャワーを浴び、海斗の部屋で海斗が作ってくれたご飯を食べ、食欲を満たす。 蓉が食べている間に、海斗は出勤して行くが、蓉はまだ自宅待機中のため、会社に行くこともなく、食べ終わると睡眠欲が強まるから、そのまま海斗のベッドへ直行していた。 何とか自分の部屋の掃除、洗濯はやっているものの、食事は全て海斗に任せっきり。 食べ終わると海斗のデカいベッドでスヤスヤと眠る。 これじゃ、自堕落な生活だ。ヒモってこんな感じじゃね?と、蓉は反省するも、海斗の押しの強さに日々負けて、ズルズルとそのまま生活をしていた。 「じゃあ、先輩行ってくるね。お昼ご飯は冷蔵庫に入ってるから、チンしてね。寝る時は、俺の方のベッドで寝ていいからね。いってきます」 「おお〜。いってらっしゃい…」 ニコッと蓉に笑いかけて海斗は出かけていく。爽やかな笑顔だ。 朝からあんなに濃厚なセックスをしたのに、さっさと支度をし颯爽と出勤していると、横目で見ていた。 海斗は相当体力があると感じる。学生時代は野球をやっていたというので、体育会系なんだろう。平日は朝早くからセックスをし、夜帰宅してからも蓉の性欲に付き合いセックスをしている。しかもセックスは何度も続けてされる時もある。前から後ろから腰を振り上げ、派手な音を立てながら、奥深くまでペニスを入れられる。おかげで蓉は、空っぽになるくらい射精している。 それに、海斗とセックスを始めてからは玩具を使っていない。使わせてくれないと言ってもいいのだろう。使わなくていいほどセックスが激しく濃厚であるため、性欲は満たされていた。 あれだけ性欲を使い切った後、料理、掃除、洗濯、そして買い物までするなんて、どんな体力モンスターなのか。バケモンだなと、朝ごはんのサンドイッチとおにぎり、味噌汁を飲みながら蓉は考えていた。 しかし、いくら自宅待機中とはいえ、このままじゃいかん!と思い、朝ごはんを食べ終えてから、何とか自分の部屋に戻り、掃除、洗濯をすることにした。 海斗の踵が潰れたバスケットシューズを借りて、蓉は自分の部屋に戻る。海斗のスニーカーは、サイズが大きいから、スリッパのように引っ掛けて履けて便利だった。 部屋の片付けをし、やることが終わったので、そろそろまた寝るかと思った時、携帯に連絡が入った。番号通知を見ると、会社からだとわかった。 「…はい、もしもし」 「あっ、芦野(あしの)?俺、吉田(よしだ)。今、ちょっといい?」 電話は経理部の吉田部長からであった。恐らく会議室からこっそり電話をしているのだろう。周りも騒がしくなく、静まり返っていた。 「芦野、急なんだけど、モンジュフーズマーケットの黒目ヒルズ店に異動となった。辞令は追って出るから」 「えっ?俺ですか?俺が、モンジュフーズマーケットの店舗の店員?異動?」 思考が追いつかない。経理部に所属していたが自宅待機となり、自宅でジッとしていたら異動の内示の電話があり、急だけど明後日から、現場であるスーパーの店舗で働いてくれと言う。何が起きたんだ。 「そうなんだよ。すまん!本当に!とりあえず、会社が決定したことなんだ。後でメールを送るから、明後日から行ってくれ」 「いや、そりゃないでしょ!ちょっと!部長…」 部長からの電話は切れてしまった。言いづらいのはわかるが、これはあんまりである。経理部に戻るために、自宅待機も受け入れていた。それなのに、スーパー店舗の方に異動と言われてしまった。 明後日からモンジュフーズマーケットの店舗に蓉は配属となった。黒目ヒルズ店は、幸いにもここから近い。二駅先にある。歩きでも通える距離にある。 だが、全くの畑違いの職場である。経理部のエースと呼ばれる蓉が、現場であるスーパーの従業員として働くのは、人事異動に違和感を覚える。 陸翔(りくと)優香(ゆうか)の話がまだ拗れているのか、間違った契約をした会社と上手くまとまらないのか、よくわからないが、蓉は経理部に戻れないらしい。 経理部には、いらない人間だと言われたような感じで、身体が急に重く感じる。 眠気も無くなったので、散歩に出かけた。久しぶりの外は天気が良く明るかった。

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