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第12話 蓉
黒目ヒルズ店勤務となり、現場の仕事も教えてもらい少しずつ慣れてきていた。
経理部の時は平日勤務で土日が休みだったが、店舗勤務はシフト制である。早番遅番の交代勤務となり、休みも土日ではなく平日になることが多い。環境は大きく変わってはいるが、蓉自身はなんてことなく、すぐに順応することが出来ていた。
店舗の仕事を始めてから、三大欲求の方は抑えられている。食事に関しては、食べればいくらでも食べられるが、時間に限りがあるので必然的に決められた量だけとなっていた。
睡眠も同じである。早番遅番に合わせて寝起きしているから、人並みの睡眠で満足している。でもまあ、寝ようと思ったらいくらでも寝れるが、今の睡眠時間で快適に過ごせていた。
問題は性欲だった。
スーパーは基本立ち仕事である。品出しをしたり、レジを手伝ったりと一日中、あらゆることをやらなければならない。
だから朝から濃厚なセックスをすると仕事に支障が出て、ツライ時がある。
海斗のセックスは激しいため、腰や身体がギシギシとする時がある。奥にグリグリとペニスを入れられて、揺さぶられると射精感が高まり、ずっとイきっぱなしになる時もある。
ずっとイきっぱなしは、ものすごい快感で、海斗とのセックスじゃないと得られないことだった。
ひとりで玩具を使うオナニーでは出来ないことがセックスでは出来ている。
ペニスを激しく出し入れすることや、中にある気持ちいいポイントをグリグリと擦られること。海斗の大きなペニスで奥まで貫かれるからこその快感があり、それをされると蓉はイきっぱなしになってしまうことが海斗とのセックスでは、ほぼ毎日あった。
そんなイきっぱなしのセックスは体力をかなり使い、消耗することになる。
だけど海斗はやめてくれない。
蓉がイきっぱなしになる姿が嬉しいような、興奮しているようなところがあるようだ。
それに激しく、熱く、ねちっこいセックスが得意な男である。だからこれを毎日続けると流石に蓉の身体が疲れて、もたなくなってきた。だけど性欲は発散しないと収まらない。とにかく射精したい。
性欲については難しい問題だが、仕事で身体が辛くなるセックスは控えて、オナニーだけにしとこっかなと呟くと、その蓉の言葉を聞いた海斗が完全否定した。
「オナニーだけなんて、欲求がぶり返すに決まってる!だったら夜!帰宅後に一回もしくは二回!濃厚なセックスをした方が欲求は収まるはず!」と言い譲らなかった。
それもそうかと、欲求には忠実な蓉はすんなり海斗の話を受け入れて、夜に一回…いやほぼ二回となる海斗との濃厚なセックスで手を打っている。
相変わらず、浅く深くペニスを捩じ込み、激しいセックスをしかけてくる。しかし、セックスを夜だけにした甲斐があってかどうかわからないが、朝は清々しく起きれて、身体も疲れず、性欲の方もそれで満足していた。
その海斗は黒目ヒルズ店に入り浸り、持ち前の人懐っこさで多くの従業員と仲良くなっていた。
「…お前、またここにいるの?何でいつもいるんだよ」
休憩室でパソコンを広げている海斗と会った。この前は、下野不在の店長室で仮眠を取っていたのも知っている。
本当にアイツは自由だ…
「先輩、迎えに来たよ!先輩の仕事が終わるまでここで待ってるね」
海斗の休みは土日なので、休みの日は昼過ぎからずっとこの休憩室に来て、主婦の皆さんやシルバーさん達と仲良く話をしている姿が多く見られた。平日も蓉が遅番の時は、会社帰りのスーツ姿のまま迎えに来ていることがほとんどだった。
「海斗、ここにいたのか。この前の件、どうだった?ちゃんと聞いたか?」
下野が海斗を探して休憩室まで来ていた。
「うん、大丈夫そうです。あっ、そうだ今日はそのサンプルを持ってきたんだ。これ、ここに置いておくから、皆さんで持って帰って使ってみて欲しい。それで感想を教えて欲しいな」
紙袋からゴソゴソと大量のボトルを机に出し並べている。何だろうと蓉は一本手に取ってみた。
新商品のサンプルのようだった。
「じゃあ、海斗、俺の部屋にちょっと来いよ」
下野が海斗を連れて行ってしまった。休憩室に残った従業員はそのボトルをウキウキと、一本ずつ持って帰っていく。
海斗は最近、こんな感じに新商品のサンプルをよく休憩室に置いてくれる。新商品には従業員みんな興味があり、欲しいという声が多く上がるため、机に置くとあっという間に無くなっていく。
従業員達からは「この前持ってきたアレ、美味しかったよ。量もちょうどいい」などの意見が活発に出されていた。
だから海斗は、本社からよく来る『サンプルの人』と認識され、主婦の心鷲掴み、黒目ヒルズ店みんなから快く受け入れられている。
海斗と下野が店長室に入って行くのを見ながら、蓉はスーパーのレジに向かった。
今日は遅番なのでこの後、締め作業がある。今は電子マネーやキャッシュレス決済が主流となってきているが、まだまだ現金決済は多く残っている。
締め作業で金額が合わないとなるのが苦痛だと言う声や、そもそも締め作業が苦手だという声も聞こえてくるから、遅番の時、蓉は率先してレジの締め作業に入るようにしていた。
経理部出身である蓉は、この作業が得意であり、たとえ金額が合わなくも、どこが違っているか見つけるのも早かった。
店が終了したと同時に蓉に四方八方から声がかかった。
「蓉くん!ダメ、またわかんない…」
「蓉くーん!こっち、助けて!」
ほとんどは金額が本当に合わないことではなく、作業手順が難しいということだ。割引券とか商品券とかがあると、尚更わからないらしい。
「おっ、これは多分…ここですね。この金額をここに訂正されてないから合わないんです。大丈夫ですよ、訂正しましょう。これで、合うはずだから、もう一回やってみましょう!」
蓉がレジの周りを行ったり来たりして、全レジの締め作業が終了した。
「蓉くんが早番でいない時は、これが大変なのよ。時間かかっちゃって」
「蓉くんどこー!って、この前、池さんが騒いでたわよ。蓉くんは休みなのに」
あはははと、元気にみんな笑いながら更衣室に向かった。本日の業務は終了となる。
「ちょっとでも役に立ててよかった。俺、ポンコツだから、みんなから助けてもらって働けてるって思ってます。本当にいつもありがとうございます」と、蓉が伝える。
「ちょっと、蓉くんがポンコツだったら、他の男はどうなるのよ!」
「そうよ!蓉くんは何でも気がついて、スッと先にやってくれるじゃない」
「王子様ってみんな呼んでるんだから」
と、すかさず主婦従業員のみなさんから褒められてしまう。そこに海斗が加わった。
「皆さんさすが!気がつきました?そうなんですよ、先輩はやっぱりそういうの得意なんです。あっ、休憩室にまたサンプル置いたから持って帰ってください!そして感想教えて欲しいな。よろしくお願いします」
「海斗ちゃんのサンプル欲しい!」
「この前のアイス、美味しかったわよ」
と、海斗もなかなかの人気者であった。
店が終わり、帰り道もまた海斗と二人で川沿いを歩いて帰ることにした。最近、この道を歩くのが定番となっている。
「なぁ、あのサンプルなんだ?」
「アレね、新商品のオリーブオイル。やっと売れるんだよ。売値を安くしてって、俺が文句つけちゃったから、春さんとまたやり合っちゃってた…だけど、下野さんが間に入ってくれたから何とかまとまったよ。俺が言ってもダメだったのに、下野さんが言ったら大丈夫ってさぁ。ねえ、どお思う?」
本社で海斗が春とバトルしている姿が目に浮かぶ。春がいるマーケティング部がリサーチし、売り出す商品を進めて価格設定しないと、営業部が売りにいけないから、折り合いをつけるのにいつも揉めていた。
「オリーブオイル?」
「うん、そう。発売まで本当はもうちょっと時間がかかるって言われてたけど、どうしても今すぐ売り出したいからさ。部長に相談して、春さんのところにお願いしたんだけど…まあ、急すぎるとか、時間が無いとかで揉めるよね。だけど今回は裏から下野さんも手伝ってくれてさ。なんとか来週から大きく売り出し出来ることになった。俺は企業に売って回るし、店舗展開も全面的に協力してくれるって。さっき、下野さんともその打ち合わせしたんだ」
自社開発したオリーブオイルは既に販売しており、それは自社ブランドの中でも一番人気である。あの陸翔が間違えた契約をしたのがそのオリーブオイルだ。
「今販売してるオリーブオイルのリニューアルか?パッケージ変更?」
「違うよ、全く新しい商品だよ。今度のオリーブオイルは美容、健康、ダイエットに効果的!ってやつで、カロリーを大幅に抑えてるんだ。それでいて今販売してるあのオリーブオイルより売値を安くしたんだから、最強でしょ?」
「ええっ!そうなの?すげぇ…春さんOK出したのか?」
「もちろんだよ!今はさ、スーパーフードとかも流行っているし、うちのスーパーの利用者は富裕層が多いし、健康とか美容にはめっちゃ注目するじゃん。だから、絶対必要だし流行るはずだよ。健康のためにっていうのと、栄養価が高くてダイエットに適しているっていうのはこれからうちで色々と提供したいと思ってるものだし。そのオリーブオイルを使ってドレッシングも作ってるんだ。これから展開する予定だよ。その辺は、春さんとこが今、頑張ってる」
営業第二部が中心となり、売り出しするという。来週からちょっと忙しくなるかもと、海斗は言っていた。陸翔が桁を間違えて契約したあのオリーブオイルとは別に、新商品として売り出すのか。
「海斗…オリーブオイルってさ…陸翔のアレだったよな」
「あはは、そうだよ。だから新商品のオリーブオイルの販売を急いでたんだよ。これからは、前のオリーブオイルからこの新商品のオリーブオイルに売れ筋をシフトしていく予定。営業第一部の部長も相当懲りたみたいでさ、あの条件付けてきた企業とは、あれ以外は契約しないし、契約更新もしない!って言ってた。当たり前だよね。だからこっちの新商品に会社全体で力を入れて販売しようって提案してさ、うちの営業第二部で大きく売り出しするんだ。挽回するよ、蓉さん」
知らないところで海斗は動いていた。
下野や春を巻き込んで、最善の道を探していたようだった。
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